怒苦打身日記 ~協会顧問 喜多村悦史のブログ~

怒苦打身日記329 高年齢者雇用安定法改正

作成者: 終活カウンセラー協会顧問 喜多村 悦史|Jun 25, 2021 10:52:12 AM

高年齢者雇用安定法が改正され、4月から施行された。ポイントは70歳までの就業機会を会社が提供すべきというものだ。

改正前の法律では65歳までの雇用保障が規定されていた。定年制を廃止して元気な限り雇用を続けることが望ましい。ただわが国では定年制は一般化しているから、すべての企業に求めるのは非現実的。そこで定年を65歳に引き上げるか、それが無理なら定年後65歳までの継続雇用をせよという内容。65歳を就業引退時期として、それ以降は年金メインの引退生活に入るという考え方であった。

新法では企業に次の義務が新たに加わる。定年を70歳に延ばすか、70歳までの継続雇用をする。これに加えて雇用ではない業務委託契約による就業の保障、あるいは企業が主導する社会貢献事業に従事する形態での実質的な就業保障の義務である。これらは“努力義務”とされている。ただしこれまでの経緯を見れば、近いうちに法定義務に格上げする法改正が提案されよう。

さらに言えばさほど遠くない時期に、75歳定年や75歳までの継続雇用などを求める法改正がされることになろう。その予兆はすでにある。公的年金の支給開始年齢は原則65歳。だが支給年齢を70歳まで繰り下げる選択制度があったが、75歳までの繰り下げも認められることになった。繰り下げることで受給期間が短くなることの見返りに月々の年金額が増額される。70歳まで繰り下げでは42%増だったが、75歳まで繰り下げでは84%増になる。

こうした改正が行われるのはひとえに日本人の寿命が延びたから。漫画「サザエさん」の父親波平さんの年齢設定は何歳か。実は54歳。1951年に新聞に連載開始されたが、その時点での一般的定年は55歳だった。当時の平均寿命(1955年男性63.60、女性67.75)に照らしても合理的だった。それが今では男性81.41歳、女性87.45歳(厚生労働省「簡易生命表」2019年)。

男性を例に取れば戦後時期は55歳で引退して、63歳まで8年間の老後期間。令和初期では73歳で引退して81歳までの老後期間で釣り合いが取れる。今後さらに寿命が延びれば引退時期を75歳以降にしなければ公的年金保険を維持できない。

さてここで応用問題。75歳まで元気であるとして、同じ企業にその歳まで勤めたいか。本音では「嫌」が大半だろう。そもそも人生の目的は他人に使われることか、そうではないだろう。主体的に暮らしたい。そのためにはカネが必要というに尽きるはずだ。年金では暮らせないから、膝を屈して仕事を求める。暮らしに十分なカネがあれば、即座にも引退して自由人になりたい人もいるはず。

支給年齢10歳繰り下げで84%の年金額増加であるならば、機械的に計算しても85歳まで20年繰り下げで168%の割増になる。支給額では2.68倍だから老齢基礎年金は月額6.5万円ではなく、17.4万円。同じ計算で95歳まで繰り下げれば基礎年金だけで22.9万円になる。生存率で補正すれば、増額率はもっと高くなる。

若い時期にせっせと稼いで70歳前にさっさと引退。築いた資産を取り崩しながら地道に暮らし、公的年金は極限まで繰り下げる。自己資金が尽きた時点で目いっぱい増額になっている公的年金を受給する。そう考えると年金繰り下げはなかなかいい制度に思えてくる。残念なのは多くの高齢者が65歳時点で受給開始してしまっていること。もう少し待つのだったと後悔しても、制度改正の遡及適用はないだろう。

 

顧問 喜多村悦史