相続診断士が伝える“笑顔相続のススメ”

第4回 想いを書いていない遺言書はもめる原因になるだけ

皆さんは「遺言書」と「エンディングノート」の違いをご存知でしょうか?

 

一番大きな違いは、「遺言書」は法的効力があるもの。「エンディングノート」は法的効力がないものです。どちらも万一に備えて、親の遺志を子どもに残すものですが、「遺言書」は、財産の承継に特化したもので、一定の形式を求められます。「エンディングノート」は、自分の葬儀や、終末期治療、財産の承継について書いたり、内容も形式も制限がなく自由です。

 

「遺言書」には、「長男に遺贈する財産 ○○株式会社の株式 1000株(3億円)…」「次男に遺贈する財産 東京都世田谷区○○丁目○○番地の土地(5000万円)…」というように財産の受取人だけを記載することが多いですし、それでご自分の相続対策は終わったと思い込んでいらっしゃる方が多いです。

 

この亡くなった父親は会社を創業して、死ぬまでその会社の株式をすべて所有していました。5年前に社長を退き会長となり、亡くなる時点では、長男が社長、次男が専務として会社を切り盛りしていました。

 

長男と次男は、父親の生前、仲良く協力して父親が創業した会社で働いていましたが、遺言書を見て兄弟はどのように思うでしょうか?

 

次男は「親父は兄貴を大切に思ってたんだ…。俺が専務として社長の兄貴を支えていたのに、すべての株式を兄貴に相続させるなんて…」、長男は「あの土地には、近い将来自分の家を建てようと思っていたのに…」などと思うかもしれません。

 

中小企業の株式を分散することは、長い目で見ると良いことだとは思いませんので、この父親の判断は正しいと思います。しかし、父親の真意が伝わらないために、この兄弟は相続を機に仲が悪くなってしまうかもしれません。遺言書を残す場合には、なぜその財産を受け取ってほしいのかを相続人に伝える必要があります。

 

「長男へ。社長の座を5年前に長男に譲り最初は不安もあったが今では私よりも優秀な社長として会社を経営する姿を頼もしく見ていた。しかし、長男が安心して経営に専念できるのは、次男が影でいつも支えていることを忘れてはいけない。中小企業の株式は、最終決断者であり最終責任者である社長が、なるべく多く所有するべきであるというのが私の経営哲学だ。したがって、株式はすべて社長である長男が所有するべきだと思っている。驕ることなく兄弟末永く仲良くやってほしい」

 

「次男へ、専務として長男の社長をいつも支えてくれてありがとう。しかし、中小企業の株式は、社長が、なるべく多く所有すべきであるというのが私の経営哲学だ。したがって、次男には申し訳ないが、株式はすべて長男に所有させるべきだと思っている。その代わり、○○の不動産を次男に遺贈する。この不動産は、いずれ次男の自宅を建てるためにと思って取得した土地だから、自由に使ってほしい。私の亡くなった後も末永く兄弟仲良く、2人で会社を守っていってほしい」

 

先の遺言書にこのような想いが書かれていたら、いかがでしょう?

2人はきっと父親の真意がわかるのではないでしょうか。

 

「想い」を書いていない「遺言書」は、「遺言書」があるために兄弟が仲違いしてしまうことがあるとご理解ください。そういうときには、エンディングノートを利用して「想い」を書き伝えてください。「想い」のない「遺言書」はもめる原因になるだけです。「想い」は「エンディングノート」で残しましょう!

 

【ご案内】

■相続診断士とは

https://souzokushindan.com/inheritance_consultant.html

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■第9回笑顔相続シンポジウム 講演動画

https://youtu.be/blwtk-dokxg

2022/12/1に開催したシンポジウムをURLからご覧頂けます

 

相続診断協会 代表理事 小川実

 

2023年04月18日