怒苦打身日記 ~協会顧問 喜多村悦史のブログ~

怒苦打身日記287 家計調査とエンゲル係数

昨年度の家計調査(総務省)が発表された。2020年度の消費支出は前2019年度よりも4.9%落ち込んだ。減少幅の大きさは今世紀に入ってからは2番目の大きさである。理由は明白、新型コロナウイルスの影響で外食や交通など外出関連の消費が落ち込んだからである。

金額的には二人以上世帯平均の月額で276167円。減ったのは交通▼51.2%、宿泊料▼44.9%、外食▼29.8%、被服及び履物▼19.7%など。出かけないから服も靴も新調不要で説明がつく。増えたのは保健医療用品・器具18.3%、酒類14.7%、家庭用耐久財12.4%、調味料10.7%など。家庭料理で家飲みしながら、ホームシアターでくつろくイメージ。生活重心が家庭や地域に向かうと見れば、

それはそれで悪くないが、日本経済の景気は下向く。

家計消費でかつて重要だったのがエンゲル係数で19世紀のドイツの統計学者エンゲルに由来する。戦後わが国のエンゲル係数の推移を示そう。

 

 

エンゲル係数とは消費支出全体に占める食料支出(食料費)の割合(%)であり、経験則から自明であることだが、「所得が高く(低く)なるにつれ、エンゲル係数は低く(高く)なる」。これを「エンゲルの法則」と言い、社会政策に活用されてきた。

このエンゲル係数は前年度より1.6ポイント上がって27.6%になった。すると低所得者の栄養状態が悪化しないように政府は特別な給付制度を設けるべきだといった類の主張を言い出す勢力が登場しそうだ。そうした扇動家の策動には気をつけなければならない。

図で見るように、エンゲル係数は戦後、顕著に下がってきたが、近年は下げ止まり傾向にある。なぜ下げ止まってきたのか。端的に言えば高齢化の影響だ。

終活準備中の世代なら分かるだろうが、子どもが大きくなって独立して出ていくと、たちまち教育費が不要になる。すると消費に占める食費のウエイトが相対的に大きくなる。その後年金生活になると、今さら新規の大型耐久消費財を買うこともないから、そうした支出項目が減り、食費の相対費はさらに大きくなる。老後を健康で過ごすために、無農薬食材に替えよう、また高価な食材で食生活を楽しもうとなれば、これまたエンゲル係数の上昇につながる。そこにコロナの外出抑制で旅行外泊費がゼロになった。エンゲル係数の短期的急上昇は当たり前の現象なのだ。

足元の今年3月の家計調査では、2人以上の世帯の消費支出は309800円となり、物価の変動を除いた実質で前の年の同じ月より6.02%増えている。3月はコロナが比較的落ち着いていたことで、旅行や飲酒を含む外食などが増えた。ということで数字の揺り戻しも当然にある。統計では、短期的だけでなく、長期的視点でも考える習慣が必要なのだ。

 

顧問 喜多村悦史

2021年05月17日