怒苦打身日記 ~協会顧問 喜多村悦史のブログ~

怒苦打身日記⑮  日本の古代パンデミック

 

todaiji奈良の東大寺本堂の柱の一つに、スリムな人はくぐれる穴がある。

学生時代、同伴の彼女の前で挑戦して抜けなくなった。外国人旅行客らしい太めのオジサン、オバサンから“ガンバレ”とはやされ、恥ずかしい思いをした。

その東大寺の大仏建立に聖武天皇は巨費を投じたが、目的は何だったのか。開眼法要に諸外国の高官を招いていることから、鎮護国家、国威発揚などの諸説が唱えられるが、当時猛威を振るっていた感染症の克服の願いだったとの説を本郷和人さん(東大史料編纂所)の文章で知った。

 

 中世ヨーロッパで猛威を振るったペストでは、総人口の3分の1が死亡した国も少なくなかった。神にすがっても感染を防止できなかったから「神の教えとはなんだ」という疑問が生じ、後の宗教改革につながった。また畑を耕す人が減って荘園制度の基礎を揺るがし、政治権力が貴族から国王に移ったなどを学校の歴史で習う。このパンデミックが欧州社会を一変させたというのが、歴史学者の一致した分析のようだ。

kjh写真はウィーンのペスト記念碑

 ペスト流行は日本ではなかった。だが奈良時代に天然痘の大流行があった。その死者数について、「正倉院文書」に残されている正税帳を使って計算し、全人口の3分の1が死亡したとの説をアメリカ人研究者が唱えているという。ヨーロッパのペストに匹敵する死亡率であり、記録では大化の改新の立役者藤原鎌足の直系に当たる政権中枢者も次々と罹患死亡している。こうなるとまさに国家の根底を揺るがす事態である。

 「高齢者に肺炎球菌感染症をうつしてはいけないから、帰省はやめましょう、なんて聞いたことがありません。夏祭りやお盆の帰省等を自粛させるのは、本当におかしいことだと思っています」と旧知の編集者がメールで言ってきた。今回のコロナについて、現時点での考え方はさまざまだ。

 

喜多村 悦史

 

2020年08月19日