怒苦打身日記 ~協会顧問 喜多村悦史のブログ~

怒苦打身日記124 ベンチウォーマーを公務員扱い

経団連が雇用調整金特例措置のさらなる延長をしている(経団連タイムス11月12日)が、「おいおい本気かよ」が率直な感想。

 その論理立ては次のようだ。

「雇調金新型コロナウイルス感染症特例措置の期限は12月末までとされているが、感染症収束の道筋はいまだついておらず、依然として、雇調金に対する企業のニーズが強い」から、延長しなければならない。

 雇用保険金が財源になっているが、「今回のコロナ禍は全国規模の感染症拡大によるものであり、必要となる失業予防対策は、事業主の雇用保険料で賄う雇調金の域を超えている」から、「雇調金全体に要する費用として、一般財源を思い切って投入すべき」である。

 コロナまんえんは事業主の責任ではない。同時に、国の責任ではない。この点の認識が財界にはないようだ。

 労働法の原則は、①使用者は雇用契約中の労働者に対する賃金支払い義務を負う。②使用者による不当な雇用契約解除(解雇)を許さない。この二点について、国家権力を行使して使用者に守らせることである。

 具体的には、解雇規制(不当解雇は無効)、解雇手当等の支給、休業手当の支給などの条項が労働基準法や労働契約法に定められ、監督官署として労働基準監督署や労働基準監督官が置かれている。

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 業務量が減った使用者は労働者を減員して人件費を圧縮する。その場合、退職金などが必要になる。他方、当面抱え込んでいたければ、自宅待機させて賃金の6割相当以上の休業手当を支給する。これでバランスが取れている。

 コロナを契機として実施されている雇用調整金特例措置では、使用者は他人(雇用保険)のカネで休業手当を支給できる。助成金支給は10月時点で2兆円を超え、雇用保険の財源が危うくなった。だったら政府に支払わせればいいではないかという次第。政府財政が赤字国債(将来世代からの借金)であることなどお構いなし。

 この提案(要求)が通れば、労働法の本質は変わってしまう。使用者の雇用責任はなくなり、政府に肩代わりされる。

 他企業に再就職しているはずの人材を、先細りの企業に縛り付け、仕事をさせずに、政府が生計を支えている。失業者の公務員化である。形式上の失業率は抑えられるが、人心の荒廃は避けられまい。生活保護関連の「貧困ビジネス」のようなことになるのは必定だろう。コロナが終息すれば、臨時措置は廃止になると言い訳するのだろうが、コロナ終息の気配はまったくない。コロナとの共存が考えられる想定だ。臨時措置が目的を変えつつ、恒久化した事例がいくらでもある。雇用調整給付金もそうなる公算が大きい。

 民主主義国での民選議員の本来の役割は、政府が余な歳出をしないための監視機能。しかるにこの国では、議員が率先して政府支出増大を主導している。

 

顧問 喜多村悦史

2020年12月01日