怒苦打身日記 ~協会顧問 喜多村悦史のブログ~

怒苦打身日記177 オンライン診療解禁

オンライン診療とは、「患者と医療機関双方がWeb上でビデオ通話システムやチャットを使い、受診の予約から診察、処方や決済までを行うもの。新型コロナウイルス禍で、医療機関に患者が足を運ばなくても診察が受けられるよう、(2020年)4月に厚生労働省が規制を期間限定で撤廃したことで注目された」(「オンライン診療は浸透するか」『週刊東洋経済』2020.12.26-2021.1.2)。

この記事では、オンライン診療を当て込んだビジネスの活況を紹介している。オンライン診療システム大手メドレーの株価が3倍に高騰しているとか、医薬品卸大手のアルフレッサや東邦ホールディングズ、医療機器メーカーの日医工などが参入しているとか、新たな市場でせめぎ合う事業者の姿を紹介している。

感染症薬国内最大手の塩野義製薬の手代木功社長の「例えばインフルエンザなどの症状でつらいときに通院するのは患者にとってストレスで、移動するのも公衆衛生上よくない。感染症とオンライン診療の相性はよい」のメッセージを掲載している。

オンライン診療解禁論は以前からあるが、医師会サイドは「対面診療に比べて得られる患者の情報が限られるため、重要な疾患を見逃す可能性がある」として慎重姿勢。しかしコロナ騒動でそんなことは言っていられないとの流れに棹差すわけにはいかず、

かかりつけ医に限るなど、例外中の例外としてオンライン診療を認める方針のようだ。だが実際問題として、自分はかかりつけ医がいると胸を張れる国民がどれほどいるのだろう。要介護高齢者は制度上主治医の存在が前提になるが、一般国民ではまずかかりつけ医とは無縁だろう。

 

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 政府がオンライン診療を促進しようとするならば、よほど本腰で取り組む必要がある。その場合、国民の後押しを得るには、オンライン診療推進によって医療費が節減され、健康保険料が2割下がるといった前向きのメッセージが不可避であると思われる。

 そして本気でオンライン診療に取り組むならば、案外、道筋は開かれると考えられる。現在の外来診療は「3時間待ちの3分診療」である。つまり患者は待合室に群れて、時間を浪費している。

オンライン診療では①待合室がいらない、②よって医師は自宅書斎で診察できる。これによる固定費軽減効果は甚大だ。③患者は通院時間と交通費とその間に容態が悪くなるリスクを避けられるから、④出費を相当に節減できる。

 対面に比べて患者から得られる情報が少ないという危惧も、オンラインの特色を活かせば大部分解消しよう。対面診療では、診察室に入れる患者は一人だけ。前の患者が退室し、次の患者が入室する時間は無駄になっている。

しかし、例えばzoomのブレイクアウトセッション機能を使えば、オンライン上の10の診察室に患者を一人ずつ入室させておき、医師は随時、各患者を一対一で診察できる。問診し、患者がチャット機能で回答を作成している時間に、医師は次の患者の診察ができる。他科の医師に代わってもらうことも可能だ。

 ざっと考えても一日当たりの診察可能患者は倍増する。医師の収入を据え置くならば、診察費に限れば半減になる。診療所なの固定費用投資が不要になる分を考えれば、さらに節減されるだろう。

 患者の側でも時間や交通費を節約できる。よって診察費についての保険給付費をいくらか自己負担に切り替えても、患者の出費総額は変わらない。

 オンライン診療導入とは医療行為の生産性向上である。そのことを正面から認めることが議論を進める早道である。関係者に変に気を使って、議論を迂回させると本質を見失うことになる。

顧問 喜多村悦史

2021年01月23日