怒苦打身日記 ~協会顧問 喜多村悦史のブログ~

怒苦打身日記187 懲役で年金受給者に

わが国は国民皆年金。国民すべてに、制度に加入し、保険料を納付するチャンスが与えられている。だが、その機会を自ら放棄した者には老後の年金保障はない。

ずっとそう理解していたのだが、制度実施では実はそうではないことが起きることを知ることになった。そしてそれに納得できない思いをしている。

社会保険審査会の裁決事例である。母親と二人暮らしの息子Aが重大犯罪で有罪になり、刑務所に入った。刑務所収監中といえども国民であり、国民年金加入者である。そこで日本年金機構は、Aの保険料納付を同居していた母親に求めた。

ところがこれにAが反発した。理由は「自分は刑務所で懲役中であり、母親と生計同一状態ではない。よって自分は低所得者として保険料の全額免除の対象になるはず」というものだった。年金機構では相手にせず、審査申し立てを受けた社会保険審査官も主張を採用しなかった。ところが再審査先の社会保険審査会は、Aの主張を全面的に採用し、保険料の全額免除を認めたのである。

 

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この結果、仮にA20歳から働き盛りの全期間を刑務所で過ごし、70歳で出所したとすると、1銭も保険料を納付しないにもかかわらず、生涯にわたって月額46千円の老齢基礎年金を受け取ることになる。基礎年金の半額は国庫負担で、これは保険料を免除された期間についても年金額にカウントされる。

つまり20歳から60歳までの保険料納付対象の全期間について保険料納付の免除が認められれば、全期間保険料納付者が受け取る満額年金(月額約65千円)の半額の年金受給権を得る。そして刑務所収監中では生活費は要らないから、出所の70歳まで繰り下げ支給を選択するだろう。すると42%の増額になる。

計算式では、約6.5万円÷2×1.42=約4.6万円である。

だがこれで終わらない。令和元年10月から年金生活者支援制度が始まっている。保険料を滞納したわけではないのに、免除期間が長かった等の理由で年金額が少ない者に年金の上乗せをする仕組みである。

Aはまさにこれに該当する。40年間のすべてが免除であったとすると、支援金は月額約11千円になる。

つまりAの合計受取額は、4.6万円と1.1万円の合計で約57千円になる。

国民年金の制度立案者は、国民の連帯式に基盤を置く社会保険制度と考えた。その精神に照らして、審査会裁決はどうにも釈然としない。読者の感想はいかがだろう。

顧問 喜多村悦史

2021年02月03日