怒苦打身日記 ~協会顧問 喜多村悦史のブログ~

怒苦打身日記191 安保だけで領土を守れるか

共産党独裁の中国政府が「海警法」を制定施行した。その内容を日本政府は国民に知らせようとしない。マスコミのほとんども同じである。なぜ国民から隠すのか。

 中国の領有する海域では、中国の海警船は他国船舶の航行を制限でき、他国が設置した構築物を破壊でき、相手国の公船、民船に対して問答無用で武器を使用する。そういう法律なのだが、さらに重要なのは、どこが中国の領有する海域であるかは、中国が判断するとなっていることだ。極端に言えば。太平洋の沖ノ鳥島(東京都)も石垣島(沖縄県)もいつなんどき中国領と宣言される可能性があるということだ。

 国際司法裁判所から南シナ海の領有権を否定された中国が不法占拠の既成事実を平然と積み上げている。フィリピンやベトナムは、当然のことながら「海警法」に反発している。しかるに日本政府や外務省だけは傍観を決め込んでいる。

なぜなのか。自国民に対する説明はない。中国が「日本政府が中国海警法に合意、賛同している」と言いふらす材料を提供している。日本政府は「尖閣では領土問題はないとコメントしている」と言い訳しているが、事情が分からない者には、「日本は尖閣の領有権を争うつもりはない」と言っているようにしか聞こえない。

 菅総理とのビデオ会談でバイデン大統領から「尖閣は日米安保条約の対象区域だからアメリカ軍の防衛対象区域」と発言があったそうだが、日本の方では、日本の漁船には操業させない、日本国民に上陸させない。その一方で中国の海警船や漁船の領海内居座りはフリーパスがネット情報の報じる実態。NHKをはじめとするマスコミは、何をおそれていのか、まったく報じようとしない。隠そうとしている。

政府やマスコミが隠すのなら、自分たちで公共の場で明らかにするのが民主主義社会の野党の原則。しかるに名だたる野党の論客が、国会で本気で論じたとのマスコミ報道を聞かない。むしろ中国の尖閣簒奪を今か今かと待ち望んでいるように見える。与党も野党もマスコミもそして国民も、だれもが領土を手放そうとしている。古今、こういう国が存続した試しがあるのかどうか。

 

日本」の画像・写真素材を無料ダウンロード(1)フリー素材 BEIZ images

 

 アメリカのテレビドラマ「マダム・セクレタリー」の再放送でこういう場面があった。ロシアが隣国ウクライナへの全面侵略を決意する。国民の政府批判をかわすためなのだが、「ウクライナ内にロシアへの併合を期待する者がおり、それを見捨てることはできない」という常套的屁理屈で正当化する。

ウクライナ政府はNATOとアメリカに支援を求めるが、石油やガスの供給を止めると脅された西欧諸国はウクライナを見捨てる。ロシアはウクライナが即座に降伏すると見越して最後通告をして武力侵攻を開始する。

だが、ロシア内にアメリカへの内通者がいて、侵攻作戦の詳細情報をアメリカから得たウクライナは、アメリカ軍顧問団の協力を得て兵力を一点にまとめた防御線を敷き、押し寄せるロシア軍を壊滅敗走させることに成功すr

 ロシアの大統領と軍部は想定外の戦況に驚愕するが、そこは百戦錬磨のロシア外交である。「征服すると決めた以上ロシアの方針変更はあり得ない。全兵力と全国力を投じてウクライナに攻め込み同国民を殺戮する。

アメリカが介入するなら核の全面戦争になってロシア人民が壊滅してもかまわない」と世界戦争論で脅迫する。初戦で負ければロシアに正気が戻ると踏んでいたアメリカには、全面戦争に国民を駆り立てる準備がない。

戦争に巻き込まれたくない世論が半分を占めるアメリカは腰砕け、戦略の練り直しをすることになる。

この段階で勝負は決した感がある。ロシアは本戦を避けて勝利した。心理戦での「孫子の兵法」の活用に成功したわけだ。後はアメリカの敗戦処理がだらだら続く。アメリカはウクライナに対し、領土の半分をロシアに無条件割譲すること、ロシアに対する抵抗派リーダーを戦犯としてロシアに引き渡すことなどを迫る。

アメリカは自らの体面を維持するのに汲々だから、ロシアは高みの見物で条件を釣り上げていればよい。アメリカに情報を流したロシア軍内の内通者を切り捨て、ロシア国内でのスパイ活動網を差し出すようになどを追加要求する。

 そこでアメリカはどうしたか。ついに堪忍袋を緒が切れて同盟国を募って戦端を開くか、そうなればNATO諸国(ひょっとして日本も)が同調するから、ロシアの壊滅とその権力者たちが国際裁判にかけられることは避けられない。普通のドラマでは、ロシア内で国民が立ち上がるなどして“正しい平和”が保たれる。だがリアリティに富むこのドラマでは違うストーリーで“偽りの平和”が維持される。

主人公である女性国務長官(マダム・セクレタリー)は、自由主義陣営の盟主として対ロシア全面戦争を辞さないとする大統領や補佐官たちに「本格戦争を避けるためには譲歩は仕方ない」と説得するのだ。

ロシアに誠意を見せるためと称して、アメリカの特殊部隊に対ロシア強硬派民兵集団の拠点を襲わせ、リーダーを生け捕りにするよう進言する。そのうえでウクライナ政府からロシアに恭順の証として引き渡せと強要するのだ。国土を守ろうとしたウクライナの指導者たちを国際犯罪者に仕立て上げるわけだ。

アメリカからも見放された4千万人のウクライナ国民を待ち構える運命はだれにでも想像できる。今回は領土半分の割譲だが、次は残り半分もよこせと言ってくることは必定。しかしそれは次のアメリカ大統領が考えればよいことだというのが彼女の計算。

今は、核戦争の危難を避けることがすべてに優先する。現実主義を標榜する政治家ではいかにもありそうなシナリオではないか。

ウクライナでは名だたる者はロシア軍に逮捕され、拷問され、シベリア送りになるのだろう。あるいは銃殺か。ウクライナ政府高官が、「わが国民はアメリカ政府を許さないだろう」とつぶやくのが精いっぱい。もっともウクライナ国民が今後も存在すればの仮定の話である。

 さてマダム・セクレタリーは戦争を避けた高揚感で「自分は世界戦争回避という立派な仕事をやってのけた」と自賛して終わる。胸の内にはノーベル平和賞がちらついていたかもしれない。

ディテールを省いた筋書きだが、ロシアを中国、ウクライナを日本と置き換えれば、わかるだろう。違うのはウクライナでは政府はロシアに抵抗し、初戦では勝っていた。占領されてもゲリラ戦を戦おうとする者たちがいた。今の日本ではどうか。ドラマのウクライナ人の顔をまともに見られないのではないか。

顧問 喜多村悦史

2021年02月05日