怒苦打身日記 ~協会顧問 喜多村悦史のブログ~

怒苦打身日記194 粗大ゴミなら掃いて捨てればよい

 2月3日の日本オリンピック委員会(JOC)評議員会における森喜朗(元総理)さんの“女性蔑視”発言の波紋がおさまらない。当人が翌日に記者会見を開いて陳謝したが、会長職の辞任を否定した。これは政局(倒閣材料)になると小躍りする野党は国会での菅総理攻撃の材料にするつもりと報じられている。

「なんだかなあ」の無力感、脱力感に肩を落とした国民が多いのではないか。

 森氏の発言は「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」。一人が発言すると「私も言わなきゃ」と続くので、会議がだらけて決めるべきことも決まらない。多分そういうことを言いたかったのではないか。そうであれば言い方があっただろう。

会議は時間内に終わらせるのが正しい。本筋と関係ない発言を遮り、適格、迅速に審議を進める権限が議長にある。そう言えばよかった。当然性別は関係ない。自身が議長であればそう進行させるだけでよかった。時間内に全メンバーに意見開陳の機会を与え、公平な決議を促す。会議は討論の場であり、厳粛な儀式ではないのだ。

氏発言の真の問題点は、「女性は…」ではなく、「(無駄な)時間がかかる」の部分のはずなのだ。国会に何十年間も籍を置き、総理まで勤めたのだから、体の髄まで染み込んでいるはず。だのにこの発言はなんだ。「民主主義を理解しておらず、それでいて総理大臣に選出されていた」ことに、内外の民主主義信奉者が驚愕したのだ。

森氏は釈明記者会見で「皆さんが邪魔だと言えば、おっしゃる通り老害が粗大ゴミになり、掃いてもらえばいい」と笑みも見せていたと報じられている。これも本質を理解できていない発言だ。「粗大ゴミ」は重くて、箒(ほうき)では掃けない。家庭の掃除機で吸い取ることもできない。清掃局に電話し、特別料金を支払って引き取ってもらわなければならないのだ。

つまり正当な手続きを経て選任された者を解任するには、選任時以上に厳格な手続きを要するのだ。それが民主主義。自身が「老害」を自覚するのであれば、自ら辞めると言うべきであり、それが出処進退である。辞める理由はないと信ずるのであれば、「所定の手続きで解任動議を出せ」と言うべきで、その相手は選定権限者であって、マスコミではない。

 

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 ところで森氏は釈明の中で「オリンピック憲章が定める女性の権利云々」と発言したとの報道もあったが、そうだとするとこれも問題。オリンピック憲章中に「すべての個人はいかなる種類の差別もなく、オリンピック精神によりスポーツを行う機会を与えられなければならず」とある。ここで奪われてはならない機会の代表事例として「女性の会議中の発言時間への制約」を挙げるのは、視野狭窄か、論点のすり替えか、思考回路の混線だろう。憲章はそのような了見の狭いものではない。

 ボクたちが小学校で習ったのは古代ギリシャのオリンピアの祭典。オリンピアに国中の運動自慢が集まり、日頃の鍛錬による肉体美と競技能力を披露した。この会期中、国民の関心は競技に向かうため、すべての戦闘行為が中断した。この期間中に指導者たちも頭を冷やし、平和条約に向かうことも多かっただろう。この史実に着目したクーベルタン男爵は世界の国々が参加する地球規模のスポーツ祭典を訴えた。

 そう。オリンピックの根本目的は、「個人の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進」なのである。そこからだれもが競技に参加できる機会を与えられることが求められ、いわゆる人権の尊重、差別の禁止に結びついていく。憲章では差別の例として、「人種、肌の色、性や性的指向、言語、宗教、政治的立場、出身地、財産、身分など」と考えつくすべてが列記されている。

 憲章では、フェアプレーの精神を求め、政治的中立を要求する。国威掲揚の手段として利用するのは問題外。ロシアがドーピング疑惑で選手派遣を禁じられるのはこのためだ。

森発言で注目が集まったのを逆手に取り、「オリンピックに政治を持ちこませない、政治対立の中和剤として機能させる」という原点に戻るきっかけにできないだろうか。

7月の開催日までにコロナの完全制圧は難しいだろう。であればコロナと切り離した開催に切り替える。体力自慢の競技者は感染免疫力もあり、仮に感染しても重症化する確率はいたって低いはず。感染が怖いという選手を無理して呼ばない。平和の祭典の趣旨に賛同し、リスクを負う覚悟がある選手だけが自発的に参加する大会にするのだ。

そしてウイルスや細菌との闘いに世界の国々が強調することをアピールする大会とする。具体的には、「ウイルスや細菌を兵器にすることの禁止、感染の情報隠しをすることの禁止…」を入賞選手が署名して自国の指導者に働きかけることを誓う。

「応じられない」として自国選手の参加を許さない国があるだろう。その国名を平和の祭典に反する国として明記して、公式記録として後世に残せばよい。そうすれば森会長はオリンピック憲章の正しい推奨者として名誉回復されるだろう。晩節を汚さないために熟考していただきたい。

顧問 喜多村悦史

2021年02月10日