怒苦打身日記 ~協会顧問 喜多村悦史のブログ~

怒苦打身日記206 年金保険料免除再考が必要

稼いだカネを後先なく無計画に使うキリギリスは、冬の寒空で凍え死ぬことになる。老後をしっかり考えなければいけないよと諭すのが、イソップの『アリとキリギリス』の寓話。その教えを社会制度化したのが、わが国では基礎年金制度。

 であれば浪費癖のある人にも、現役時代に欠かさずきっちりと保険料を納付する習慣づけをするのが、年金制度運営者の業務になる。その観点に照らせば、保険料納付免除の適用は厳格でなければならない。これは制度設計においても同じことだろう。

 現行制度では、障害年金受給中の者は国民年金保険料を一律免除されることになっている(同法89条)。障害年金は一度支給されると、死ぬまで給付が続くものと考えられたからであろう。

 しかしそれは医療進化の実態に即していない。医療やリハビリの効果で、障害状態が改善して障害の支給がされなくなるケーズは確実に増えている。障害年金が失権すれば、老齢年金を受給することになるが、保険料面を受けていた期間により、最大半分にまで減ってしまう。当人にとって不都合だろう。

 

考えるの写真素材|写真素材なら「写真AC」無料(フリー)ダウンロードOK

 

 2019(令和元)年の障害基礎年金の実態を見てみよう。

 障害年金では、①「精神障害・知的障害」、②「内部障害」(呼吸器、循環器、腎・糖尿病、血液・造血器・その他)、③「外部障害」(眼、聴覚等、肢体)に分類される。この区分に従って新規裁定や支給停止が行われる。

まず①の「精神障害・知的障害」では、新規裁定48,435人、支給停止1,060人で、停止になった者の比率は2.2%と低い。③の「外部障害」でも、新規裁定11,436人、支給停止202人で、停止になった者の比率は1.8%と低い。

ところが②の「内部障害」では、新規裁定4,612人に対して支給停止者が443人で9.6%に達する。障害状態が解消される者が1割近くいることになる。また精神障害も治療の進歩で、治癒率の向上が見込まれ、期待されている。手や足を失えば、再び生えてくることはないが、それとは違い、治療によって完全回復が可能な場合ば少なくないのである。

こうした回復者が老齢年金を十分に受けられなくなるのでは、生活の安定保障にならない。障害年金受給になったら無条件に国民年金保険料納付を免除するという仕組みは、「いったん障害状態になれば改善はあり得ない」という古い観念の置き土産である。

現役年齢である以上、基本的に国民年金保険料を引き続き納付することにすべきであろう。さらに言えば、老齢年金支給開始年齢以降は、障害年金は一律失権させるのが、公平の観点から正しいと思われる。つまり障害年金を老齢年金受給までのつなぎ、あるいは老齢年金の先行給付ととらえ直すべきなのだ。

顧問 喜多村悦史

2021年02月22日