怒苦打身日記 ~協会顧問 喜多村悦史のブログ~

怒苦打身日記210 鉄の女の涙

「鉄の女の涙」。イギリスの女性首相、マーガレット・サッチャーを描いた映画だ。戦後のイギリスは社会主義を目指し、主要産業を国有化したが、労働組合の指導者はストライキで政府を揺さぶり、政府支出を際限なく膨れ上げさせる。

 これに敢然と立ち向かい、それまで妥協でことをごまかそうとしていた保守党のリーダーたちを、世間知らずの臆病者と面罵し、国民に対して、「政府にぶら下がるのをやめよ。自分の足で立ち、働いて食い扶持を稼げ」と説き、労働党から政権を奪い返して総理大臣に就く。

 その結果、低落傾向にあったイギリス経済は立ち直り、主要先進国の地位を取り戻した。彼女の強い意志を示すのは、内政では財政堅調路線を決して放棄しなかったことだろう。政府が国民にカネを配るようになれば、要求は際限なくなり、公徳心は下落の一途。街がごみであふれても自分ではなにも行動せず、政府の責任を声高に叫ぶようになるだろう。

政府によって生命と財産を守られているのだから、「国民はその参加費用を均等に負担すべき」が彼女の説く正義であり、公平であった。つまり政府にたかるポピュリズムは彼女がもっとも忌避するものであった。

 また彼女はヨーロッパ統一通貨ユーロには、国民国家を冒涜するものであるとして最後まで反対した。当時は時代錯誤と嘲笑されたが、近年ブリグジットが国民投票で可決されたことをみれば、彼女の方が国民の長期的意思を体現していたことがわかる。

 

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 最後に触れなければならないのが、フォークランド紛争への対処である。イギリスの国力低下を見切ったアルゼンチンの独裁政権が1982年にイギリス領の島を軍事占領した。並みいる政治家がしり込みする中で、彼女は「領土侵奪の悪党を許すのは正義に反する」と全海軍力を派遣する。

軽挙を諫めにやってきたアメリカの国務長官に対し、「あなた方は1941年にハワイが日本軍に攻撃されたときに紳士的な外交交渉をしようとしましたか。フォークランド諸島は、貴国のハワイに相当します」と主張、アメリカは納得して支援を決断する。イギリスはフォークランドを守り抜き、アルゼンチンの独裁政権は自国民の信頼を失い、崩壊することになる。

フォークランドを尖閣に置き換えれば、そのまま今の日本である。菅首相が尖閣に駐在部隊を配置し、漁船の操業基地を作る。中国との漁業協定を廃止すると宣言しない理由はなにか。この映画を見るか、回顧録を読めば、恥じざるを得ないはずだ。

顧問 喜多村悦史

2021年02月25日