怒苦打身日記 ~協会顧問 喜多村悦史のブログ~

怒苦打身日記215 痛くない死に方

標題の映画を見ましたか。案内記事によると、在宅医療に従事する医師の“成長ぶり”を描くもので、220日から全国で上映されている。終活を考えるのにぴったりの素材。

ヒトの人生とはなにか。目標、希望は人さまざま。そして成就する者あり、不首尾の繰り返しに終わる者あり。でも、最後は遅かれ早かれ、みんな死んでしまう。例外はない。命が尽きようとする瞬間、それまでの人生が走馬灯のように高速度の映像として脳内を駆け巡り、臨終の場に追いつく。

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このとき「おもしろい人生だったな」と総括できた人が、ほんとうの意味での成功者。思い残すことが多くて、この世に後ろ髪を引かれる思いで息を引き取るのは失敗人生。ボクはそう思って生きてきた。ただ思い通りの結末になるかは、いまだ自信がない。多くの人も同じだろう。それが〝終活“に人々の関心が向かう理由だと思う。

映画の原作者である長尾和宏先生、在宅医療を手広く展開する佐々木淳先生、映画の主人公の医師役を演じた俳優の奥田瑛二さんの鼎談が『BAMBOO』(20212月号)に載っている。なるほどと頷ける発言を拾う。

「出会ってすぐには診察に入らない。話をじっくり聞いて患者さんの気持ちをときほぐす」と町医者の本髄を長尾先生が述べると、「残された時間と体力とお金の中で、患者さんがどう過ごしたいかをサポートするのが在宅医療である」と佐々木先生。どう生きるか、どう死ぬか。当人が決めることが重要ということだろう。ただ一回きりで、やり直しはない人生だから、楽しまなければ意味がない。人生の終末を泣き過ごさなくていいように現役時代に精一杯働き、社会保険料を納付するのだ。この順番を間違えないようにしたい。

 奥田さんの発言で気に入った下りは、臨終の際、家族の前で右手が上がったら「幸せな人生」、左手だと「不幸せ」、どちらも挙げなかったらまあまあ。奥田さんは遺書や遺言もつくってあり、墓や戒名も用意済み。「棺桶は桐の無垢材にして、娘と孫に鳥の絵を描いてほしい」と伝えてある準備の良さ。

 家族ににぎやかに送られるか、ひとりで思索しながら旅立つか、自分の思い通りの死に方ができるよう計画し、準備し、実施する。その一連のプロセスが終活。病院で体中に管をつけられ、口からではなく栄養補給を受けて、痛みに耐えつつ天井を見据え、ただただ死に神を待つのがその対極。それだけは避けたいものだ。

 

顧問 喜多村悦史

2021年03月02日