怒苦打身日記 ~協会顧問 喜多村悦史のブログ~

怒苦打身日記217 日本の尖閣EEZで中国漁船転覆

尖閣北方190キロの海域で32日、中国漁船(10人乗り)が転覆した。海難通報を受けて急行した日本の海上保安庁航空機が漂流している中国漁民8人を発見した。うち5人が付近にいた中国漁船に救助された。残り5人が行方不明とみられ、日本の巡視船が捜索していると新聞が報じている。

 日本国民であれば、このニュースでただちに疑問が生じるだろう。

尖閣諸島は日本の領土領海であり、周辺海域は日本の排他的経済水域(EEZ)である。だのになぜこの海域に中国漁船がいたのか。領海やそれに接続する海域で操業できるのは、その国の漁船だけである。

北方領土でサケ・マス漁船が拿捕され、竹島近海で日本の漁船(日本の巡視船も)が韓国警備艇に銃撃されたのも、ロシアや韓国が実効支配しているからだ。ならば日本が実効支配しているはずの尖閣では、外国漁船は操業できないはずではないのか。

だれもがそう考えるはず。それを解くカギは日中漁業協定。この協定により中国漁船の操業が認められ、その監視の名目で、中国の海警船(実質は海軍の軍艦)が出張っている。転覆報道の付属記事の扱いで、「尖閣の領海外接続水域を中国海警船が航行。18日連続」と述べるが、実態は今回の連続とその前の連続の間に、しばしのお休みがあったからで、年間通算では330日にも及ぶ。

中国海警船は尖閣に居なおり、領海内にも悠然と遊弋している。中国海警船は機関砲を搭載しており、しかも相手かまわず発砲してよいのと許諾を中国政府から得ている(21日施行の海警法)。そんなもので撃たれれば軍事仕様でない日本の巡視船などひとたまりもないだろう。

日本政府は数日前、巡視船の危害発砲を容認するとの方針を出したが、「装甲車に重機関銃を装備した強盗団に対して、ピストルで応戦して逮捕せよ」の指示に等しい。警官(この場合は海上保安官)の命を何だと思っているのか。

 

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元に戻って疑問への解答。尖閣海域に中国漁船が来なければ、中国の海警船の航行理由はなくなる。日中漁業協定を廃棄すれば解決する。それだけのことだ。だがこれを論じる政府の見解を聞いたことがない。そもそも日中漁業協定を国民は知らされていないのではないか。

ちょうど国会は予算議論の最中だが、最大野党の立憲民主党にとっては格好の政府攻撃材料なのに、なぜこの問題を避けるのか。野党が取り上げないから、政府もダンマリ。現に起きている領土喪失の危機を国会議員全員が共謀して知らぬ顔をしている。国会議員全員による共謀売国罪であろう。

ネットで「尖閣諸島における漁業の歴史と現状」(國吉まこも、日本水産学会誌)という古い論考を見つけた。ja (jst.go.jp)

 尖閣諸島では日清戦争前から日本人が定住し、海産物加工のほか海鳥のはく製事業に従事していた事実を紹介している。中でも注目すべきは戦後の記述。沖縄の返還前の「60年代に入り同諸島での台湾漁夫による海鳥の乱獲や不法上陸が多発、事態を重く受け止めた米国政府と琉球政府は1970年同諸島に不法上陸防止のための警告板を設置している。…同諸島における中国船の漁業は1990年代になるまで、確認された例はほぼ無い」。

 領有権問題も「1968年国連のアジア極東経済委員会(ECAFE)が同諸島周辺の大陸ダナに改定石油資源が埋蔵する可能性を発表すると、俄かに領有権を主張する動きが隣国から出る」と記述している。

だが現象に振り回されて本質を見失ってはならない。漁業も石油もその奪い取りは、中国にとってはおまけのようなもの。本質は世界制覇に向けての軍事進出の布石。南シナ海のサンゴ礁埋め立てでは、「軍事化しない」と言っていたはずが、いつの間にか軍事要塞が完成している。既成事実ができると言い方を変え、中国領なのだから共産党独裁政権が何をしようが勝手次第。

文句をつけるのは内政干渉とはねつける。香港民主運動圧殺でもウイグルのジェノサイドでも同じ論法。われわれ民主主義者とは思考回路が違う者との間ではまともな議論は成り立たない。期待すればひとり相撲で自滅するだけ。行動で示さない限り、絡めとられてしまう。

ボクは日中漁業協定の取り止めが勇気ある行動の第一歩だと思う。菅総理が国会でそう答弁すれば、政権の安定は間違いない。そうしたまともな答弁をされると困るから(国益を守られて何が困るのか。われわれ庶民にわからないのだが)、立憲民主党は尖閣や領土問題の議論を避けるのかなあ。

顧問 喜多村悦史

2021年03月04日