怒苦打身日記 ~協会顧問 喜多村悦史のブログ~

怒苦打身日記231 時短に応じない店には過料

-東京都が新型コロナウイルスの緊急事態宣言下で午後8時までの営業時間短縮の要請に応じていない複数の店舗に対し、改正特別措置法に基づいて、より強い時短営業「命令」を出すと事前通知したことが16日、都への取材で分かった。

通知後も時短営業の要請に応じなかった場合には18日以降、命令を出す見込みという。命令を拒んだ場合、行政罰として30万円以下の過料を科すことができる。

都は飲食店などを対象に時短営業を要請。都の調査で午後8時以降も営業を続けていることが確認された100店舗超に対して改正特措法45条に基づいて、より強い要請を出していたが、この要請に応じた店舗は一部にとどまっていた。このため、15日から事前通知を開始したという。

都は事前通知を出した店舗の営業状況を現場で確認し、要請に応じていなければ命令を出す。命令時に点目営の公表も可能だが、公表によって逆に人が集まってしまう可能性も考慮して慎重に検討していく。

命令を拒んだ場合の行政罰についても、現場の状況などを踏まえて判断する。(産経新聞2021.3.17)。-

 

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なんとも奥歯にものが挟まったような印象の対応だ。コロナ対策の基本線をどこに置くのか。それがはっきりしないからこういうことになる。

コロナの感染源を絶つ。それが今回の政策目的であるならば(個人的には別意見を持つが、民主主義国の国民として政治リーダーの決断に従う)、合目的的に粛々と手段を実施すればよい。法務省は出入国管理法を根拠に、昨年21日に中国湖北省(武漢を含む領域)からの渡航者すべての入国を禁止した。その根拠条項は同法51項だが、注目すべきは適用が14号であったこと。

1号で感染症法が定める一定の“患者や疑似症状者”の入国拒否を定めるが、これではコロナ“無症状者”の上陸拒否はできない。そこで14号の「日本国の利益又は公安を害する行為を行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」に湖北省から渡航者全員が該当すると緊急事態の解釈をすることで一律入国拒否することになった。

「それは解釈上無理だよ」と法務省のお役人たちは常識的解釈論を展開したが、「国民の命と健康がかかっているのに、悠長なことを言っている場合ではない」と森まさ子法務大臣(当時)が決断したと聞いた。まさに政治的解釈。コロナが持ち込まれれば、国内治安が損なわれるとの超解釈で、コロナウイルスをテロ爆弾と同等扱いしたわけだ。

誰かが訴訟に及べば、政府は負けるかもしれない。だが、それは緊急事態を無事乗り越えて国が存続していればの話である。制度的遺漏がないように本格的な法的手当をするなどは今後の話。コロナ防疫を最大の国家的危機と捉えるならば、当然の緊急措置であったと評価できる。

飲食業の時短営業も基本は同じ。食品衛生法は食中毒の恐れがある飲食店の営業を禁止する。「コロナは食中毒の原因ではないから食品衛生法では取り締まれない」は平時の解釈。緊急事態では飲食店のコロナ拡散を防止することが優先される。よって同法の規制領域が“食品を通じてのコロナ感染防止”に一時的に拡張解釈される。

平時ではあり得ない乱暴な解釈だが、先に挙げた出入国管理法がまさにそうだった。しかも今は緊急事態宣言下である。「緊急」とは「平時」ではないということ。そうであれば法制度の解釈でも緊急対応が求められる。緊急時には政治リーダーによる即断強権を容認する。その裏付けとして平時には政策実施者に厳格な法の遵守を要求するのだ。そこがいつでも独裁者の恣意次第の専制政治と違うところ。

営業時短が非常事態の必要事項というのであれば、それに従うのは当然。そのどこがおかしいのか。“識者”を自任する人の中には、営業自粛には十分な補償金の支給がセットでなければならないとする者がいる。だがそれは平時での論理。

コロナを蔓延させないための非常時対策として、飲食店を通常通り開いてもらっては困る。それが民主主義ルールを踏まえた政治決定ならば、主権者たる国民(飲食店経営者も国民である)は従うのが当然。それが憲法に規定する「公共の福祉」の観点からの制約。補償金をしてはならないとは言わないが、受諾の条件だと要求するのは論理にそぐわない。

飲食店は来客の存在があって成り立つ。飲食店への時短要請は、国民に対して非常事態中は、自粛要請時間帯に飲食店に行くなとの要請でもあるわけだ。過料30万円を徴求されるのは違反営業の飲食店だが、消費税と同じで、最終負担者は適正時間外の来客者であるべきだ。

刑法では、覚せい剤を売る者、賭場を開帳する者のほか、客として軽い気持ちで吸引したり、賭けたりした者も処罰される。しかるに緊急事態下のコロナでは、顧客はお咎めなしとはいかないはず。「取締法がないから」は平時の言い訳。緊急事態というからには、直ちに緊急の法整備をするか、それをできるまでは緊急の法解釈で対応する。それが民主主義国の法的ルールである。

顧問 喜多村悦史

2021年03月18日