怒苦打身日記 ~協会顧問 喜多村悦史のブログ~

怒苦打身日記247 スノーデン独白 消せない記録

エドワード・スノーデンの『独白』を読んだ。アメリカの国家機密を暴露したとして追われる犯罪者。これが大方の理解。

彼が暴いたのは、アメリカ政府があらゆる通話、SNS、メールを秘密裏に収拾しようとしていること。個人の自由、その根底にあるプライバシーを政府に奪われない権利が、アメリカという国の根幹である。スノーデン自身、そう信じてきた。2001911日のアルカイダによる同時多発テロに怒り、陸軍に志願入隊している。

その彼が、CIA(中央情報局:アメリカ合衆国連邦政府の民間対外情報機関)の有能な契約業者として情報に自由に触れる機会を得る中で、アメリカ政府が「大量監視社会」を構築していることに気づき、オーウェルの小説「1984年」が現実化している危惧から、高給の身分を捨て、一身を賭して告発に踏み切る。いわば公益通報事案である。

彼が売国者でないことは、その思想信条で分かる。

「専制主義国家では、権利は国家から生じて人々に許されるものだ。自由国家では、権利は人々から生じ、国家に与えられるものだ。前者では人々は従属する臣民で、財産を所有し、教育を求め、働き、祈るのは政府がそれを許可してくれるからでしかない。後者では、人々は市民であり、同意の契約に基づいて統治されることに合意しただけであり、その契約は定期的に更新され、憲法上は停止することもできる。現代における大きなイデオロギー紛争だとぼくが思っているのは、この衝突、つまり専制主義と自由民主主義との衝突だ。

…専制主義国は通常、法による政府ではなく、指導者たちの政府であり、従属する臣民からは忠義を求め、反対には手厳しい。自由民主国家はこれに対し、そうした要求はほとんどあるいはまったくせず、むしろそれぞれの市民が自発的に、人種、民族、信仰、能力、性別、ジェンダーによらず、身の回り全員の自由保護の責任を負うという事実だけに依存する。血縁ではなく同意に基づくどんな集合的保証も、博愛主義を支持せずにはいられない。― 

そして民主主義はしばしばこの理想にまるで及ばないとはいえ、ぼくはいまでも、民主主義こそは、背景の違う人々が共存し、法の前に平等となるのを最も十分に可能とするような唯一の統治形態だと思っている。この平等性は、権利だけでなく自由も含む。実際、民主国の市民が最もありがたがる権利の多くは、法に明記されているわけではなく、暗黙のうちに決まっているだけだ。それは、政府権力の制限を通じて生じた、オープンエンドの虚空に存在するだけだ。たとえばアメリカ人が言論の自由の「権利」を持つのは、政府がそうした自由を制約する法律を一切作ってはならないとされているからだ。…」(山形浩生訳18章)。

 

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 政府にも言い分はあろう。人民の一挙主一投足まで監視し、思想を締め付ける中国のような専制国家との対立で致命的な敗北を喫しないためには、同等の防御態勢が必要であると。スノーデンはそれでも国民の「同意手続き」を無視した手法は認められないとする。

 この問題を解くカギはなにか。ボクは政府の情報収集は「非常事態対応」なのだと思う。231回の「時短に応じない店には過料」で書いたように、非常事態での対応は平時とは異なって当然。そうでなければ非常事態宣言など無用。「営業制限は憲法違反」と訴訟提起した者がいるが、その本質は「コロナが非常事態に該当するか否か」なのだ。非常事態宣言が正しいのであれば、そこで完璧な経済補償を要求するのは内乱騒擾である。

 スノーデンの期待通りの政府行動を求めるのであれば、自由民主主義体制を脅かす勢力がすべて非合法化され、世界から排除されて、存在しなくなることだ。何度でも触れるが、わが日本国憲法はその前文で「自由と民主主義という政治道徳は普遍であり、すべての国家が従わなければならない」としている。要は、憲法を尊重擁護する責務を負う「国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員」(99条)が、責務どおりの行動をすることにかかっている。

 市民からの無断の情報収集に戻そう。先月、無料通信アプリ「LINE(ライン)」利用者の個人情報が、中国の関連会社で閲覧できる状態になっていたことが判明した。これはとてつもない大問題である。スノーデンが指摘したのは、自国政府が国民の情報を無断で収集利用していることだった。LINEでは、日本政府ではなく、中国という異国の企業が日本国民の情報を無断収集利用していた。専制国家の中国では、企業はすべて中国共産党の支配下にあるから、LINEで漏出した情報は中国政府の手の内に納まっていると見なければならない。ということは、日本国民の情報を中国政府は自由に扱い、日本政府は何も持っていないということが生じる可能性がある。

マイナンバーとか、デジタル庁とか、技術的便宜性の議論が先行しているが、政府が構築する情報社会の結果が、日本国民の(要人の情報はより詳細な)全情報が中国政府のコンピューターに納まり、脅しや操作、プロパガンダに使われる結果になる懸念はないのか。「自国政府による個人情報支配は許せないが、外国政府ならばよい」という考えで大丈夫なのかということなのだ。

 尖閣、香港、ウイグルなどでの日本政府の対中融和的、同調的な対応から感じた危惧である。多くの国民が同様の不安を感じている。それがマイナンバー制度の普及しない理由ではないか。 

顧問 喜多村悦史

2021年04月03日