怒苦打身日記 ~協会顧問 喜多村悦史のブログ~

怒苦打身日記248 新疆ニューフロンティア

『辺境中国』という本を読んだ。著者はデイヴィッド・アイマーという英国人ジャーナリスト。原文もいいのだろうが、近藤隆文さんの訳文が散文の見本のように読みやすい。すらすら進みすぎて、読み落とし部分が心配だが、印象が薄れないうちに感想を書き残す。

 サブタイトルが『新疆、チベット、雲南、東北部を行く』。今回は1部の「ウイグル ニューフロンティア」について。

 新疆区域には甘粛省の嘉峪関から西進するが、その先に漢人はいなかった。だが今は漢人の入植が進み、ウイグル族等は人数的にも圧倒されている。数世紀前、アメリカで西洋人たちが、騎兵隊がインディアンを蹴散らす後を追って進んだのをなぞっている。騎兵隊に代わるのが人民解放軍と武装警察。それと原住民を取り締まる手段としての民族言語使用禁止、民族文化の破壊、監視カメラ、盗聴システム。

 悪名高い「労会(労働改造所)」とは、「共産党の不興を買った者が入れられる強制労働収容所」であるが、「新疆の「労改」は新疆生産建設兵団(XPCC)が管理している。…XPCCは、事実上の影の地方政府で、すべての町と産業を支配している。…現在、新疆のGDPの約10%を占めている。そのうちどれぐらいが「労改」の重労働から生み出されているかは知られていない」。

 この区域の少数民族には、ウイグルのほかにカザフ族、キルギス族、タジク族など多様である。中国は、それらとウイグル族を相互対立状態におく政策で、最大数のウイグル族に弾圧の矛先を向ける。帝国主義的分割統治方法だ。著者が紹介するウイグル人は、「ウイグル人の大半は独立を求めているけれど、新疆は石油とガスがあり余るほど豊かだから、中国人がそうはさせない。…ウイグル人は何度も独立しようと思ったけれど…」。うまくいかないのはウイグル人の国が地上に存在しないから。カザフ人はカザフスタン、キルギス人にはキルギスタン、タジク人にはタジキスタンという独立国家が隣にある。うまくいかなければ新疆を捨て、そちらに逃げ込める。「もしウイグルスタンがあったら、僕らはここにはいない」。

 新疆の近代史は、清国、ロシア、インド(イギリス)の帝国主義争奪場所だった。帝国主義を捨て、民族自決の精神に則るならば、手遅れになる前に独立国にするのが当然なのではないか。日本国内でアイヌ独立を主張する人がいるが、そのエネルギーがなぜ喫緊の問題であるウイグル独立支援に向かわないのか。

 

ウイグル族の民族舞踊[26092012282]の写真素材・イラスト素材|アマナイメージズ

 

ウイグルのジェノサイド(民族撲滅)は現在進行形。中国共産党は歴史を改ざんする。19972月に新疆西北のイーニン(グルジャ)で、「人民解放軍が非武装のウイグル人に発砲」し、あるいは「針金で手を縛られ」て「公開処刑」される騒擾があった。著者はその地を訪れるが、「多くの罪のない人の死を思い起こさせるものはなく、当局が彼らに言及することもない。事件はそもそも公式の記録から削除されている。気に入らない歴史を無視する、あるいはその事実を改竄(かいざん)することが党の方針となって久しい。秦始皇(始皇帝)から得た着想だというのが毛沢東の口癖だった」と著者は記す。

世界ウイグル会議の議長として、中国におけるウイグル人の人権擁護を訴える活動を行っているラビア・カーディルさんは日本でも知られている。成功した実業家として中国人民政治協商会議委員も務める体制側のウイグル人だった。「イーニン抗議運動の残忍な鎮圧の仕方を公然と批判した。これが彼女の失脚の発端となり、二年後には、国家機密漏洩の罪を着せられて収監された」。

ウイグル族でなくてよかったと胸をなでおろすだけでいいのだろうか。発言し、行動しなければ、この先、日本民族が今のウイグル族と同じことにならないか。

顧問 喜多村悦史

2021年04月04日