怒苦打身日記 ~協会顧問 喜多村悦史のブログ~

怒苦打身日記256 どこに住もうが保険料は同じはず

 国民すべてが保険証を持っていて傷病の治療を受けられる。これがわが政府が世界に誇る“国民皆保険”。でも制度はそうでも、実態が違っていたら? 

 保険証が手元にあっても、病院、診療所、調剤薬局などが通える区域になければ無用無益。保険料詐欺と批判されても仕方がないよね。離島などでの診療所維持、ドクターヘリの整備などは、健康保険加入者の契約上の受診権利を守る必要条件なのだ。

 保険加入者間の権利は公平・公正でなければならない。よもやこの原則に異を唱える健康保険関係者はいないだろう。このことを確認した上で問題提起。

 全国単一の健康保険がある。全国健康保険協会という公的団体を保険者とするもので、俗称「協会けんぽ」と呼ばれるものだ。本人、家族併せて4千万人もの加入者を抱える。健康保険の保険料は、加入者(制度上は「被保険者」という)の報酬に単純比例で、このところ10%(労使が5%ずつ折半負担)で持続(ボクに言わせれば高止まり)している。

 ところで10%というのは平均であって、加入者の居住都道府県域によって差が設けられ、徐々に拡大している。理由は簡単で、制度運営は全国単一だからその収支によって保険料率は決まる。ただし居住領域ごとでの収支計算では地域間のバランスが取れていない。それで保険料率に地域差を設けることにした。保険料率が低い新潟県在住者の9.50%に対し、佐賀県は10.68%で1.12倍の負担になる(2021年度)。給料30万円の労働者が新潟支店から佐賀支店に転勤になると、保険料だけは月額28500円から32040円にアップする。

 地域間保険料格差はなぜ生じるか。最大理由は受診行動の差異。さらに分析すれば保険医療機関の分布。朝、起きたら少し体調がよくない。医者の元を訪ねるか、もう少し様子を見るかは、各人の判断次第。近在に診療所があれば、またそこでの待ち時間が長くなければ受診する。行くのに1時間、待合室でも1時間であれば躊躇するだろう。

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参考までに保険料率の低高のベスト3と、それら都道府県での医師数(人口10万人当たり。2018年末、全国平均は258.8人)を掲げると次のようになる。

低率1位新潟県9.50%(医師数210.5人)、2位富山県9.59%(267.4人)、3位福島県9.64%(214.2人)。高位では1位佐賀県10.68%(291.0人)、2位北海道10.45%(254.0人)、鹿児島県10.6%(281.6人)。保険給付費と医師数の相関度が高い。全都道府県での保険料率表と医師数比率票を比較すれば一目瞭然。

健康保険診療に従事する医師(=保険医)数を調整することで、保険加入者間の保険料格差の解消につながることがわかる。実に簡単。

保険医の登録は健康保険制度内の権限事項。保険医の従事地域を登録の付帯条件にすることは、その気になればすぐにでもできる。例えば佐賀県内で新たに保険診療所の開設申請に対し「ここは満杯ですから新潟県で開業なさってはいかがでしょう」と勧めるだけのことだ。保険医制度は医師の収入保障策ではない。健康保険加入者の診療機会確保策なのだ。この基本を置き忘れての議論は無益であるばかりか、健康保険財政の悪化と加入者の保険料増加につながるだけ。健康保険の目的は何か。常にこの原点に立って議論すべきなのだ。この指摘はおかしいか。

顧問 喜多村悦史

2021年04月12日