怒苦打身日記 ~協会顧問 喜多村悦史のブログ~

怒苦打身日記257 防衛施設周辺土地規制

「安全保障上の重要施設 周辺の土地規制強化 自民が法案を了承」と題する323日の毎日新聞署名(木下訓明、遠藤修平)記事。考えさせられた。まずは記事の要約。

 ― 法案の目的は、安全保障上重要な施設の周辺の土地建物を調査し、電波妨害といった機能を阻害する行為から施設を守ること。

自衛隊や米軍、海上保安庁、原発などの重要インフラの周辺約1キロと、国境離島区域を「注視区域」に指定して、土地建物の所有者の氏名、住所、国籍や利用実態を不動産登記簿などから情報収集できるようにする。機能を阻害する土地利用が明らかになった場合は、利用中止の勧告・命令が可能で、命令に応じなければ罰則を科す。

司令部機能のある自衛隊や米軍施設の周辺など重要性の高い区域は「特別注視区域」に指定。土地取引の際は売り手と買い手に事前届け出を義務づけ、国による買い取りなどの利用規制をする。 ―

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 ただこれだけの内容だという。ほんとうにスパイ活動やテロを防止する気があるのかと、突っ込みたくなる。ところが政府与党内では、公明党が土地規制は「経済活動の自由や国民生活に関わる話だ」(北側一雄副代表)などと反対し、法に基づく措置を「個人情報の保護に十分配慮」しつつ「必要な最小限度のもの」と条文に明記し、「注視区域」と「特別注視区域」の指定は「経済的社会的観点から留意すべき」だとの制約条項を入れることになった。ちなみに市街地や海上保安庁の施設はとりあえず「特別注視区域」に含めない合意だそうだ。

野党立憲民主党の安住淳国対委員長に至っては、323日、国会内で自民党の森山裕国対委員長と会談し、「安全保障の美名の下に私権制限が当然だということにはくみしない」として法案に反対する考えを伝えている。

国会議員たちは言葉の遊びをしている。その結果、「自国政府が私権制限をするのを認めない」が、「外国政府や無国籍テロリストによる殺戮行為に対処する必要がない」というおそろしい事態を招くことになりそうだ。どうしてこうした倒錯した考えができるのか。生命は私権の最たるものだろう。自国民の安全こそが民主主義政体での議員の任務である。国会議員選挙に立候補する者に、憲法の試験をする必要がある。

政府官憲が私有地に日々入り込んで事業や生活を妨害するのはたまらない。その懸念は当然だ。そうした素朴な国民間隔に沿った法制度にすべきなのだ。今回の法案のように、土地利用規制といった仰々しい名称の割には、ほんとうに効果が上がるのかも不明な法律は必要ない。「やっている振り」は要らない。真に必要な時に実効性がある制度と運用が必要なのだ。

憲法29条は、まず1項で、「財産権は、これを侵してはならい」とある。よって特定の土地取引を妨害し、土地所有者の利益を損なうような法律は作らない。

同条2項は、「財産権の内容は、公共の福祉に適合するように、法律でこれを定める」。国防、治安はまさに公共の福祉だ。これらを妨害、破壊する可能性のある行為が行われる可能性がある土地利用は判明次第、没収に至る強硬措置を行えるとの法律を作るべきなのだ。実施が恣意にならないよう、発動に司法(裁判所令状)関与を要件してもいいだろう。

同条3項は「私有財産、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる」。上述の法律要件に該当すれば(例えば自衛隊弾薬庫の隣接民有地の倉庫に大量の爆発物を保管する)、その用途の変更を求め(保管物を変更する)、聞き入れられなければ、倉庫を土地もろとも接収することになる。この場合、刑法の没収に近いものであるから、補償をするにしてもその額は微々たるものに留めなければならないであろう。この点、政府法案で「特別注視区域」で国による“買い取り”とするのは甘いに過ぎる。先に挙げた例で、わざと弾薬庫そばの民間倉庫に爆発物を運び込み、撤去してほしかったら高く買い上げろという悪質事業をはびこらせるおそれすらある。

顧問 喜多村悦史

2021年04月13日