怒苦打身日記 ~協会顧問 喜多村悦史のブログ~

怒苦打身日記259 二重思考の名手

中国の駐日大使である孔(こう)鉉佑(げんゆう)という人物。市井人が同じ発言をすると精神異常とされそうだが、そこは中国共産党のエリートとのことだから、価値基準が違うのだろう。

 新疆ウイグル自治区での民族弾圧について、「いっさい発生していない」とし、連日報じられる国外脱出した被害者の証言を「でっち上げ」と言い放った。わが国の国会議員(自民党外交部会プロジェクトチーム)への公式な説明においてである。

 あまたの証言を無視しきる肝っ玉の太さに感心している場合ではない。詳細な発言禄を公開してもらい、日本にも逃れてきていいるはずのウイグル被害者に読んでもらって対比すべきであろう。

 まともな証言もないのに従軍慰安婦を事実とご認定した河野官房長官談話では、「ないものをあった」と認定した。一方、孔鉉佑大使は「現にある迫害行為をない」と断定した。これが積み重ねられて“歴史的事実”になっていくのだとすると、後世は何を信じられるのか。どっちもどっちだが、攻撃性の方向が逆。

 

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 孔鉉佑大使はこうも言ったという。「日本はアメリカに追従していないでアジアの一員としての責任を果たせ」。この場合、重要なのは人権を尊重するか、民主主義を信奉するかである。大使はこの点についてどうなのかと問い返すべきであった。また日中共同声明(19729月)では相互に覇権を求めないとなっていたはずだが、直接関係でも沖縄の尖閣への侵犯(414日で61日連続)はこれに反しないのか。

わが議員たちとのやりとりをマスコミはしっかり報じるべきだろう。ところが聴取の事実そのものを、朝日、毎日、東京の全国紙は一行も報じていないのだそうだ。該当紙を購読しているみなさん、いかがでしたか。

 ジョージ・オーウェルは『1984年』で、ビッグ・ブラザー(共産党)が支配する世界では、「戦争は平和なり」「自由は隷従なり」「無知は力なり」を信じることが強制される。自由社会に暮してきた者では理解できないことだが、思考が統制される社会で暮らしていると、これら標語が真実に感じられてくるのだという。

なかには染まらない者がいる。そうした者は抹殺される。ただし存在してはならない者だから、その者の出生にまでさかのぼって「事実が作り直され」、その者は生まれてもいなかったことになる。「最初から存在しない者への拷問、処刑はあり得ないよ」と孔鉉佑大使は言っているのだろうか。

 中国共産党が事実と認定したことが事実。認定しないことはその場に証拠があっても事実ではない。そして証拠は片づけ、記録上当初から存在しなかったことにされる。この証拠書き換え作業(=歴史の改竄)は大変な知力と忍耐を伴う仕事であり、ときどき工作の矛盾がでてしまう。ちなみに『1984年』の主人公は共産党の中級党員でこの仕事に携わっている。事実は小説より奇なりという言葉があるが、そんな生易しいものではないように思える。

顧問 喜多村悦史

2021年04月15日