怒苦打身日記 ~協会顧問 喜多村悦史のブログ~

怒苦打身日記271 教科書のロンドン条約記述

中学社会科『歴史』教科書の検定が恣意的ではないかと揺れている。「新しい教科書をつくる会」が、審査のダブルスタンダードの31事例を文書で公開している。その一例に挙げられるロンドン軍縮条約(1930年)での補助艦の対米英比率。

 わが国は国防上ライバル国の7割以上の保有比率を交渉妥結線としていたが、米英は事前に手を組んでいて妥協しない。また日本政府にも財政健全化の上で米英の主張に乗る意向があった。また海軍内部にも先述の進化を踏まえ、鑑定の保有トン数にこだわらない動きがでていた。政府は対米英69.75%で妥結させる。

 以後、海軍では海戦の戦術を艦艇同士の砲撃戦から離れて、空母中心の機動部隊による航空攻撃に転換を図るようになり、世界の海上戦闘の歴史が変わることになる。一方国内政治では、当時の野党が統帥権干犯などと騒ぎ立て、戦前の議会制民主主義が崩壊に向かう歴史の一つの展開点になる。この辺りを中学生にどう教えるかで、現場の教師の教育力が問われることになる。

 

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 自由社の教科書は「米英日の補助艦の比率が10107」だったが、「数値が不正確」と指摘された。検定官は「69.75%」という7割をわずかに下回ったことが重要とするようである。であれば帝国書院版の「米10、英10、日7」、日本文教出版版の「米10:英10:日7」も不正確な記述としてダメ出しされていなければならない。だが2社は無条件OK。悪意のダブルスタンダードではないかというわけだ。

 ところで対米英7割ではなくて、7割を若干下回っていたことを認識している国民はどれほどいるのだろうか。また国際的勢力均衡の面では、端数の違いにどれほどの意味があったのだろうか。ワシントン条約(1922年)での主力艦の「510):510):36))」に比べれば、補助艦では日本の比率は高まっている。しかし同率には程遠い。この辺りの駆け引きも重要なポイントだろう。複雑な話をいかに要約すべきか。

 いずれにせよロンドン条約は日本の針路をたどる上で基本的な個所であるとの見解のようだ。であれば検定官を国会喚問してその基本認識を問うのが、もっともわかりやすい方法だと思う。

顧問 喜多村悦史

2021年04月27日