怒苦打身日記 ~協会顧問 喜多村悦史のブログ~

怒苦打身日記276 少子化対策には目標値が必要

全国厚生労働関係部局長会議の一コマ。この会議で厚労省の政策責任者が新年度の方策を都道府県等に示す。日本国の社会保障の現状や方向をさぐる絶好の情報源といってよい。全国紙、専門誌の記者を通じて、国民に正しく流布され、議論の材料になることが期待される。
 ボクの社会保障観は、有識者と称する一部の御用学者ではなく、制度の対象である国民の実感に基づく声を吸い上げるべきというものである。

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 部局長会議で伊原和人政策統括官は「少子化対策」を第一の課題に掲げていた。出生数の劇的な落ち込みが続き(2019年86.5万人)、国民は文字通りの亡国不安を感じている。年間出生数の目標値を何万人と定めること、その目標年次を示すこと、そして実現への足跡を事実で示すことが政府のすべきことだ。


「子どもを産みやすくする施策を増やし、予算を増額する。しかし結果は今年度も出生数は減った」。この繰り返しをしてきたのがこれまでの少子化対策。公費投入額の増加が、出生数の低下を引き寄せている。分析的に言えば、政策の成果が出ないように仕組むことで、危機感を煽り、予算の増額と権限拡大を獲得する。頭脳的な国民騙しである。


 具体的に指摘しよう。統括官は3つのテーマを掲げる。第一は不妊治療への医療保険適用。該当者にとってはもちろん朗報であり、福祉向上である。ではこれにより不妊が解消され、生まれてくる子どもは年間何万人か。30万人であれば、年間出生数は86.5万人から116.5万人に増加するから、少子化対策の柱になるが。
日本産科婦人科学会によれば2018年に不妊治療で生まれた子どもは5万6979人で出生総数の16人に一人。保険適用でこの数が何倍増にもなるとの計算ができているのか。また示されているのか。一方、母体保護法により合法的に人工妊娠中絶手術が行われ、生を奪われた子どもは届け出分だけで2018年度16万1741件。闇での処分数はこの何倍にもなっているはず。こちらへの言及はないようだ。


 第二が保育所待機児童の解消で14万人分の保育所増設に巨額の公費を投入するという。小学校入学時年齢は平均して6歳半。14万人を6.5で割れば1学年2万人強。この保育所増設で出生数が30万人増につながるとは思えない。待機児童解消で少子化問題が解消するとの自信がどこから出てくるのか。夫婦共稼ぎが常識になり、保育所は不可欠の社会インフラになっている。そもそも「待機児童」の定義は、保育所に申し込んだのに入れなかった数。近辺に保育所がないから家庭で育てている人は勘定に入っていない。そうした姿を見て、出産に踏み切れない人がいるはず。


 少子化対策として保育所を位置づけるのであれば、「子どもはいつでも保育所に預けられる社会」にすることが政策でなければ意味があるまい。保育の受け入れ総数が子ども数を上回るようにすることが政策でなければならないのである。保育所不足状態を持続させ、予算獲得の手段とする目くらましはいい加減にしてもらいたい。


 シンプルに考えればこうなるはずだ。目標出生数を仮に150万人としよう。そうするとその6.5倍約1000万人分の保育施設が必要になる。これをすべて重装備、金食い虫の認可保育所で対応するのは無理なことは、だれにでもわかる。ではどうするか。低年齢児は親が育児休業を取得させる。4、5歳児では小学校付設のプレスクールとして再定義する。


さらに保育が必要になるのは、親が職場に通勤するからである。自宅リモート勤務では基本的に必要ない。そう考えていくと保育費用は通勤定期代同様で勤め先企業は負担するのが筋なのだ。保育費用を公費負担するのは、労災事故の補償金を政府が肩代わりして企業を免責するのと構図的には同じ。雇用に必要な費用と企業に認めさせることがすべての前提になる。後はすべて応用問題。


第三のテーマは男性の育児休業促進という。子どもは二親で育てるものであり、共稼ぎが標準形であれば、育児休業も均分所得するのが標準形態のはず。にもかかわらず将来の出世を目指す夫は休まず、妻に休業させる。この選択を変えさせるには強権発動が必要だ。予算ばら撒きで対応することではない。ではどうするか。各自の育児休業所得日数を半減させれば、夫が取得するようになる。夫の取得率が低い企業を「女性蔑視傾向企業」としてマスコミが叩けばよい。オリンピックの森喜朗会長の発言を批判しつつ、スポンサー料をくれる企業叩きはしたくないではマスコミの底の浅さが知られよう。
少子化をダシにするのはやめよう。出生数を本気で回復させよう。それが少子化対策のはずである。

顧問 喜多村悦史

2021年05月01日