怒苦打身日記 ~協会顧問 喜多村悦史のブログ~

怒苦打身日記284 高齢者の入院後回し

ポピュリズムは恐ろしい。だれにも反対できない“正論”を盾に、常識的考えを封殺する。意図するか否かは別にして、その結果は社会を壊す方向に作用する。

 大阪府でコロナ感染者が急増している。入院調整を行う医療監職の上級幹部職員が、高齢者について「入院の優先順位を下げざるを得ない」とするメールを府下の保健所にメールした。医療監は医師資格を持つ医療系技術職のトップ。メールは「入院調整依頼に関するお願い」と題するもので、「当面の方針として、少ない病床を有効に利用するためにも年齢が高い方については入院の優先順位を下げざるを得ない」と記載され、心停止などの際に蘇生措置拒否の意思を示す高齢者施設の入所者については「看取りを含めて対応をご検討いただきたい」とされていたという(産経新聞51日)。

 これに対し「人命軽視」などの批判があったのだろう。大阪府の健康医療部長が取材に対して「高齢を理由に入院の優先順位を下げることは一切ない。高齢者施設での対応力を上げてもらいたいという趣旨だった」と釈明し、「誤解を招く表現が含まれており、お詫びしたい」と述べたという。

 どうしてこういうことになるのだろう。高齢者に死ねと言ったわけではあるまい。重傷者が増えてきて、専用医療施設が足りないという前提があったのだろう。わが国の病床数は世界的にも断然多いのに、なぜコロナ病床が足りないのか。転用に積極的でない病院があるからではないか。緊急事態と言いつつ協力しない。そうした病院経営者が「医療は営利事業ではない」と唱えることをなぜマスコミは取材批判しないのか。

 病床数が足りていれば、医療監はこうしたメールを出さなかったはずだ。病床数確保ができないという前提で対応することになれば、患者の選別は避けられない。先着順、症状別区別、医師との関係の濃厚順、コネの有無順…。そうした中に年齢区分もあり得る。そして合理的に考えれば、年齢区分はそれなりに意味があるのではないいか。

 船が遭難したが救命ボートが足りない。最後の一席を求めて幼い孫連れの老人がやってきた。船長が選別するか、老人に選別させるか。だれが選別するにせよ、「孫を乗せる」ことでただちに決着するだろう。敬老精神で老人優先、孫は海に捨てよう。そういう判断をする国民性であれば、その国の将来は危うい。 

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顧問 喜多村悦史

2021年05月09日