怒苦打身日記 ~協会顧問 喜多村悦史のブログ~

怒苦打身日記293 政策決定のグーチョキパー

霞が関公務員の醍醐味の一つが国策を左右する法案を作成すること。1986年実施のいわゆる基礎年金導入に法案作成担当者としてまる4年従事した。子どもが起きている間に家にいることは珍しく、朝「また来てねー」と大声で送り出されるのは近所に恥ずかしかった。

 成案が固まっていく節々に与党自民党の了解を求めに行くのだが、なぜ法案の閣議決定前に議会の一部政党に説明しなければならないのか。慣習だからと説明されたが、どうにも了解できなかった。だって日本は三権分立。与党すなわち政府であるイギリスとは違うはずだ。漠然とそういう疑問を持っていた。

 今になってその「なぜ」を勉強している。『自民党政治の源流』という本を読み、日本の戦前からの国策決定のメカニズムが多少分かってきた。関心を持つ人たちによるさまざまな分析があるようだ。

節子、それ豚足ちゃう、じゃんけんでグーを出してるだけや。の写真を無料ダウンロード(フリー素材) - ぱくたそ

 その一つが俗に政財官のグーチョキパーと言われるもので、自民党(ほぼ万年与党)は財界の要求を受け入れ、政府官僚組織に指示する。官僚機構は法制度によって業界を統制する。代議制民主主義だから、国会議員や政党に公務員は従わなければならない。ここに権力のバランスと、政策決定の方向性があるというものだ。

 しかしこれでは行政府と国会(与党も野党にいる)との力関係が明瞭でない。これを説明するのが日本型の議院内閣制。憲法上行政府(内閣)と立法府(国会)は対立関係にある。しかし総理大臣を出し政権を担当する与党と、空理空論の外野批判勢力と心得ている野党の役割が固定しているため、政策は与党内でしか議論する意味がない。逆に言えば、議席数が逆転しないから与党内で合意を得た政策が国会で否定されることはない。そこで国会での質疑よりも、与党内での熟議が重要視され、それが進んで、内閣の政策決定である閣議に先立って与党に説明し、了解を得る手続きが慣例化したというものだ。

 ただその場合、与党内での政策審議は効率上、省庁の単位に応じて割り振られる部会単位で行われることになる。これは日常的な事項では差し支えないが、縦割りの省庁単位では処理できない事項、それまで想定していないため担当省庁が存在しない事項などには、機動的に対処できない。そうした場合には、与党党首であり、かつ内閣首班の総理大臣の陣頭指揮が求められる。

 これがいわゆる緊急事態。コロナだけでなく、尖閣を含む領土領海、中国等による人権や民主守護という、これまでの先進諸国の普遍的価値観へのあからさまな挑戦などが数えられる。問題は総理たる者にその自覚があるか。また国民に総理のそうした責任と権限への理解があるかということだ。「憲法にそうした規定がない」と言いあっている間に国が滅びてしまってはたまらない。

顧問 喜多村悦史

2021年05月18日