怒苦打身日記 ~協会顧問 喜多村悦史のブログ~

怒苦打身日記294 アスベスト政府責任と尖閣

建設現場でアスベスト(石綿)を吸い込み、肺がんなどになった建設労働者に対する適切な保護規制を怠ったとして、国と建材メーカーに賠償を命じる最高裁判決が出た(517日)。関連裁判の原告は1200人に上り、最初の提訴は平成20年だから、係争期間は13年になる。

今回の最高裁判決のポイントは、昭和50年時点において建設分野でのアスベスト使用禁止がなされて当然であったにもかかわらず、国が労働基準法等によって与えられていた権限を行使して、「事業主に対し作業場での防塵マスク着用を義務付けさせるなどの規制措置をしなかった」ことをとがめたことである。

危険が分かっているのに、それを防ぐ責務を果たさなかったという不作為に責任があるということだ。

アスベスト製造工場での労働者の健康被害に関しては、平成26109日の最高裁判決で国の賠償責任が認定されている。責任認定の構図が工場での製造分野から、建設という使用分野にも拡大されたわけだ。

その構図とは、立法府が法律によって行政庁に与えた規制権限はその“適正な行使をも義務づけた”ものであるということだ。ここで「権限の適正行使」には、

①法の授権範囲を超える恣意的な濫用が認められないことであると同時に、

“②実施すべきである禁止等の規制措置を怠惰や不勉強のために実施しない場合”も、行政官吏の違法となり、国家賠償の対象になるということだ。行き過ぎもダメ、不作為もダメ。法の趣旨を正しく理解し、科学技術の進行にも目配りを怠らず、過不足のない厳正な権限行使をしなければならないのである。

血液製剤によるエイズ感染事件で、HIVウイルス混入輸入売血の禁止あるいは除去措置(加熱処理)を講じさせなかった規制担当官僚(課長)の個人責任が問われたが、理屈的には同じである。

 

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今回の判決後、与党はただちに被害者一人当たり最大1300万円の和解金を支払う案を策定し、政府と原告側は基本合意したと報じられている。訴訟負担を考慮した解決や未提訴の被害者も救済するため、和解金と同水準の給付金を支給する制度を議員立法で創設することも合意されたとのことだ。

迅速な対応はよしとしよう。ではなぜ13年間も政府は訴訟で抵抗していたのかとマスコミは批判している。さらに言うならば、裁判所で叱られるような“適正な規制の不実施が是正されなかったのはなぜか”が問われるべきだろう。

ものごとには原因があって結果がある。アスベスト規制はなぜ遅れたのか。ひょっとして担当官僚は気づいていたが、規制を言い出せない圧力や忖度があったのではないか。

それを炙り(あぶり)出して、行政機構の意思決定と実施のメカニズムを正す改革が、再発防止の出発点になる。建設現場での規制が正しく実施されていれば、労働者の健康被害は防止されており、国家賠償は要らず、国民の税負担は軽減されていた。

これは統治システムが健全に機能しているのかという基本事項である。わが国固有の領土で好漁場でもある尖閣周辺海域。にもかかわらず石垣島などの漁民が出漁できない。異国(中国)の武装公船が遊弋(ゆうよく)していて、漁労作業が不可能だからである。

中国公船による攻撃を避けるため、日本政府は日本人漁民にこの海域への出漁をさせないという。この因果関係は明白そのもので疑問の余地がない。

まさに規制権限の不適正な行使である。まず①日本の漁民がわが国の領海内、排他的経済水域内で行う漁獲行為をさせない(積極規制)法的根拠はない。少なくとも漁民は示されていない。②日本の漁民が合法的に操業するのを妨害する者がいれば、その妨害者を取り締まるのが、海上保安庁の責務である。

ここで取り締まり権限を行使しない、しなくてよい理由はどこにもない。(あるなら国民に示せ)。アスベストでの適正な規制を怠ったことが国家賠償事由になる。石垣島の漁民は尖閣海域での得べかりし漁獲収入を国土交通大臣(海上保安庁を所管)の個人賠償責任と、さらに国家賠償を追及する権利があると思われる。

昨日519日で中国海警船の尖閣海域への居座りは連続96日になる。

 

顧問 喜多村悦史

2021年05月20日