怒苦打身日記 ~協会顧問 喜多村悦史のブログ~

怒苦打身日記300 医療事故報告制度

2020年の医療事故報告件数は324件だったという。1日平均では全国での1件以下。日本医療安全調査機構の発表だ。桁が違うのではないか。それがとっさに浮かんだ疑問。

「患者調査(2017年)」によると、調査日の患者数は入院131万人、外来719万人。合計では850万人になる。日々、これだけの数の医療行為が行われている。その中での事故確率が850万分の1。ジャンボ宝くじの1等の当たる確率1千万分の1とほぼ同率。まさか!

 報告制度の根拠法律を見た。医療法6条の10に「病院、診療所又は助産所(以下この章において「病院等」という。)の管理者は、医療事故(当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であつて、当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかつたものとして厚生労働省令で定めるものをいう。

以下この章において同じ。)が発生した場合には、厚生労働省令で定めるところにより、遅滞なく、当該医療事故の日時、場所及び状況その他厚生労働省令で定める事項を第6条の151項の医療事故調査・支援センターに報告しなければならない。」

 かいつまんで言えば、①死亡と死産に限る。かつ②病院長等の管理者が、医療行為による予期しない死亡であると判断したものである。

 右腎臓を摘出すべきなのに間違って左腹を開いたが、異常がないのでカルテを確認、慌てて左腹の切開になったというような場合は、命には別条なかったとして報告対象事例にはならないわけだ。

 

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 この法律での「医療事故」の定義は疑問だと思う。一般感覚では、患部を間違えてメスを入れるなど、どう考えても医療事故だろう。最高裁の調査では年間千件程度の医療事故訴訟が提起されている。裁判になるのはよほどのケースであり、そうなる前の事例はその何十倍もあるはずだ。

「医療死亡事故」の報告制度としないと、間違った安全認識がはびこることになる。その結果、死亡には至らなかった事例で、「どうして自分の身にレアな事故が起きたのか」と患者の怒りが増幅することになる。制度の用語は適切、的確であるべきだ。

 報告制度の趣旨について日本医療安全調査機構のHPは次のように言う。

「医療事故が発生した医療機関において院内調査を行い、その調査報告を民間の第三者機関(医療事故調査・支援センター)が収集・分析することで再発防止につなげるための医療事故に係る調査の仕組みです。本制度の目的は、医療の安全を確保するために医療事故の再発防止を行うことであり、責任追及を目的としたものではありません。」

 患者が医療行為で予期せずに死亡しても、医療者側に過失がなければ賠償義務は発生しない。患者の体にメスを入れたり、強力な薬剤を飲ませたりするのだから、医療行為が死をもたらすことは避けられない。

そのほとんどの事例で、医療者には問題視されるような過失はないだろう。そのことを一般論として国民に納得させるためにも、死亡事例を自発的、予断なしに報告してもらい、専門家による客観的な調査をするとともに、その結果の収集分析と活用によって、同種の事故を減らそうという制度なのだと思う。

 だとすれば過失が表に出ることを怖れて、事故の発生そのものを隠ぺいすることは、制度の趣旨にもっとも反する悪質な病院等管理者ということになる。そうした目で見た場合、全国で1日に1件以下しか、予期しない医療死亡が起きていないという報告数はおかしくないか。

報告された事例の解析もさることながら、報告を怠った事例があった病院の即刻閉院命令を出すことが必要なのではないか。

 交通事故でも果実の有無にかかわらず警察への届けが要求される。それをしないで逃げるととんでもないことになる。医療行為での事故報告がそれよりもおざなりというのはどういうことか。

顧問 喜多村悦史

2021年05月26日