怒苦打身日記 ~協会顧問 喜多村悦史のブログ~

怒苦打身日記304 諸国民の公正と信義

国家のあり方の基本を定める憲法。その中でも神髄は前文部分。しかるに日本財団が実施した18歳意識調査では、前文を「読んだことがある」のはたったの4割。残り6割は「読んだことがない」か「覚えていない」。小中高での社会科教育が問われる。

同財団の笹川陽平会長は産経新聞『正論』(2021521日)で、憲法を真剣に考える必要があると説く中で、9条という具体的条項を検討する前に、前文の2段落目をしっかり検討することを求めている。この点はボクが以前から主張していることだからまったく賛成。

関係の一文はこうだ「日本国民は、恒久の平和を祈願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」

この文を義務教育終了レベルの国語力で解釈してみよう。まず文末に「われらの安全と生存を確保しよう」とあるから、自滅する意思などないことが分かる。ではどのようにして国家を保持するか。「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」とある。そしてその前提として、「恒久平和への祈願は人類の基本的な共通理想」とある。この理想を共有する地球上の仲間と日本国民は連帯するというのが、この文章での解答ということになる。

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そのうえで現状分析をすることになる。そうすると戦後間もない時期、この憲法が制定された時期では、恒久平和の理想に共鳴する国家がほとんどであると思われた。したがって各国固有の国防力は小さくても、その総合力(国連を通じた集団防衛力)で事足りた。ところが今は覇権主義を隠すことなく、軍事力で近隣を威嚇し、究極は世界征服を目指す異質の専制国家が出てきている。そうすると恒久平和の理想を共有する国々は、それぞれが防衛力を強化し、合同の軍事力で対抗することが「安全と生存を保持する残された道」ということになる。

このように前文からは非武装は出てこないのだ。「前文」を生かそうとすれば、9条は改正、廃止を避けられない。今の9条が「前文」に違背している。ボクには、これ以外の現状認識論あるいは解釈論があるとは思えない。国民の大多数もきっと同じだと思う。

しかるに憲法改正議論がいっこうに進まない。今の日本国憲法はだれが作ったのか。明治憲法の改正だから天皇陛下が下げ渡したとも言えるし、世間一般認識のようにマッカーサーの幕僚の一人が若い部下を督励して1週間の突貫で原案作成させ、それを強圧的に日本政府に押し付けたとも言える。また前年(1945年)秋以降に巷で議論されていた民間の各案のいいとこ取りをしたとも言えるし、帝国議会で審議されているのだからに日本人の手によると言えなくもない。

いずれにせよ現に存在し、機能しているのだから、今の憲法をベースに、直すべきところを改めていくことが、現実的な方法であるということでは異論はないだろう。

その場合、何を置いても意識しなければならないのは、改正においては国民(有権者)の意思によるものとなっていることだ。96条はこうなっている。「この憲法の改正は…国会が発議し、国民に提案してその承認を…経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちに交付する。」

憲法改正議論では、国会での発議云々が俎上にのぼるが、そこが間違っている。決定権は国民にあると解するべきなのだ。さて、そうすると問題にしなければならないのは、国会が発議しないために、国民が承認権を行使する機会がこれまでただの一度もなかったという事実である。簡単に整理すれば、「国会が国民の憲法改正権限を妨害してきた」という事実である。

一部政党は言うだろう。「衆参各議員で総議員の3分の2以上賛成がない改正案がまとまらない限り、発議できないのだよ」と。ここで深刻な事態が生じるわけだ。世界の情勢が転換して、憲法に緊急事態条項などの整備が必要だと国民の大部分が思っている。ところが国会では各会派の間で改正案の細部をめぐって成案が得られないため、国民の承認に付すべき案がまとまらない。

ここで考え方の整理が必要になるわけだ。A:国会が発議できないから、憲法改正をしないまま過ごし、国家が滅びるのを座視するか。B:憲法を無視して国会で強引に超憲法法律を作って(法律は過半の賛成で成立する)、国を守るか。

どちらもよくない。民主主義、国民主権を破壊してしまう。そうであれば国民の多数が憲法改正を要求するのであるから、なんとか成案をまとめるか、それができなければ生煮えの案でもいいから国民に提示し、国民投票の機会を作るのが責任ということになろう。例えば、憲法改正委員会に改正案作りを委ねるという発議でもいいではないか。とにかく国民が憲法のあり方について、国民投票する機会を設けることである。

顧問 喜多村悦史

2021年05月29日