怒苦打身日記 ~協会顧問 喜多村悦史のブログ~

怒苦打身日記308 外傷診療の進歩に必要なのは

『学術会議が阻む外傷治療の進歩』と題する論考を読んだ「産経新聞『正論』517日」。著者は日本医科大学教授の松本尚先生。同感だ。

松本先生は、消化器外科を経て1995年より救急医に。2001年からは日本医科大学千葉北総病院救命救急センターのフライトドクターとなり日本でのドクターヘリによるヘリコプター救急の第一人者とされている(wikipedia)。

救命救急センターで扱う外傷とは、「指を切ったとか肋骨(ろっこつ)が一本折れたとかという程度ではなく、出血が酷(ひど)く心停止が切迫するような重症のけがを指す」のであり、「時に患者は頭部や胸腹部の内臓に損傷を負い、骨盤や四肢の骨折を合併していることもある」ので、「治療には多くの専門家の医師・看護師によるチーム医療や迅速な外科手術が必要であり、通常の医療機関でこのような診療を行うことはきわめて困難である」と松本先生。

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これに異議を唱える人はまずいないだろう。そこで救命救急センターが枢要地に整備されることになる。だが、どのような機材を整備し、医師等の要員がどのような技量を取得し、患者にどのように対処するかは、経験の積み重ねによって会得される。大量出血を止める外科手術をはじめ、主要な外傷診療のノウハウのほとんどは軍事技術、戦争体験の中から培われてきた。昭和の終わり頃、アメリカの血液製剤が国内の高齢者治療などで大量使用されていたが、その理由を探っていったら、ベトナム戦争終結で不要になった戦傷兵用のアルブミン制裁の販路開拓が主因であった。軍需品の民間転用である。

科学に軍事用、民生用の別はなく、使用する者の意図によって用途が分かれる。GPSやドローンを引き合いに出すまでもないだろう。原子力技術を日本では発電に用いるが、北朝鮮では核弾頭に用いる。

軍事転用の可能性があるものにはいっさい関わらないことを貫くならば、カーナビを搭載できず、空中からの撮影や農薬散布もできなくなる。それでいいのですか、というのが松本先生の問いかけだ。

日本学術会議は頑(かたくな)に「軍事」関連研究を禁止する。その結果、外傷診療分野の進歩がなく、「適切な外傷診療が行われていれば救命できたと思われる外傷死亡率」が38%にも達する。アメリカでは10%程度だから4倍だ。日本だから助からなかった者の遺族は、研究を禁圧している学術会議に賠償請求すべきと思ってしまう。

「学術会議による妨害を排除し外傷外科に関する医学研究を発展させなければ、日常生活において外傷死を減らすことはできない。ましてや国防有事の際に負傷するかもしれない自衛隊員や国民を守ることがはたしてできるのであろうか」。学術会議は自らの改革を拒否しているが「笑止千万」。松本先生の結論である。

 

顧問 喜多村悦史

2021年06月04日