怒苦打身日記 ~協会顧問 喜多村悦史のブログ~

怒苦打身日記313 わいせつ教員の教壇復帰

生徒・児童へのわいせつ行為で懲戒免職となった人物が教壇に復帰するのを制限するのは人権侵害になるのか。現行の教育免許法では、懲戒免職になった者では3年、刑事事件として有罪になり禁錮や懲役の実刑を受けても刑期終了後10年が経過すれば、再び教員免許を取得して教壇も復帰することができる。それでは同じことが繰り返される恐れがあるとして、児童・生徒やその保護者たちが国の教育システムへの疑念や不安を抱えることになりかねないとの声が根強い。

国会議員や教育関係者などから対策を求める声が上がるが、元教員の「職業選択の自由を侵害する」などの声もあって、政府は法制度化に躊躇していた。そこで国会議員が党派を超えて議論し、共同で法律制定を目指すことになった。

フリー背景素材】教室 / カズオ さんのイラスト - ニコニコ静画 (イラスト)

その法案「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律案」が今国会で成立することになった。衆院の委員会では、作業チームの共同座長を務めた公明党の浮島智子議員が法案の趣旨説明の中で、「児童生徒への性暴力等は、生涯にわたって回復しがたい心理的外傷などの影響を与えるもので、決して許されるものではない。このような教員が教壇に戻ってくることはあってはならない」と元教員の永久追放を内容とすることを明言している。また、委員会では、保育士についても同様の仕組みを検討することや、教員だけでなく、児童や生徒に日常的に接する職種や役割に就く人に、性犯罪の前科などがないことの証明を求める仕組みを、検討することなどを求める附帯決議を可決している。

具体的には、国が該当の特定免許状失効者等に関するデータベースを整備すること(15条)や、都道府県教育委員会の特定免許状失効者等への免許状再交付に当たっては、教育職員免許状再授与審査会の意見を踏まえて限定的に行うべきこと(23条)などである。

該当者の“人権”(この場合は職業選択の自由)と生徒・児童のわいせつ被害を防ぐという“公共の福祉”が衝突する法制上の問題であるが、新聞紙上で識者3人が所説を述べている(産経『論点直言』523日)ので、ボクなりに整理してみた。

まず、法案作りに関わった山田賢司衆院議員(自民党)。現行法でも、都道府県教育委員会が教員として採用しなければいいのだが、情報が共有されていないことで、他府県で採用されてしまうことを防げない。また文科省が人権論などを乗り越えられないと腰が引けていた。そこでデータベース整備と抑制的な免許再交付を内容とする新法を提案した。殺人者でも10年経てば刑が消滅して教員の欠格事由がなくなるが、刑余者対応の一般論を教育現場のわいせつ教員に無条件に応用することには、教育委員会、教職員組合、学校関係者のヒアリングでも誰もが「二度と教壇に戻さないようにしてほしい」と語っていた。この件でも野党からの理解と後押しがあった。

次に元東京地検特捜部検事で衆院議員の経歴もある若狭勝弁護士。職業選択は憲法221項に規定されるが、「公共の福祉に反しない限り」と明文の留保があることを想起すべきだ。医師や弁護士では復権が認められる場合であっても、教員は生徒、児童、保護者の側で選択できない特性があり、より厳しい運用が当然だ。また10年を経て刑は消滅しても、刑事事件の前科前歴は国に残っており、再び犯罪に関与した場合の起訴や量刑を左右する。こうした点を考慮すれば、かなりの長期間教師復職を制限しても問題はない。

最後に全日教連委員長の島村暢之教諭。個人的には、わいせつに限らず、懲戒免職で教師資格を失った者は二度と免許取得できないようにすべきだと思う。ただし厳格化と同時に教師を育てる余裕が現場に欲しい。体育の鉄棒指導で服の上から体を支えただけで「わいせつ」「暴力」と騒ぎ立て、まじめな教員を委縮させる風潮は問題だ。また教員が生徒・児童と適切な“距離”を保ちつつ指導をする技量を取得するのに回りが援助できるよう、過剰な業務の軽減や研修の充実を含む教育現場の環境改善が必要だ。

取材側は意見の対立を期待したのだろうが、期せずして識者3人がそろって、わいせつ教員の永久追放に声をそろえることになっている。

顧問 喜多村悦史

2021年06月07日