怒苦打身日記 ~協会顧問 喜多村悦史のブログ~

怒苦打身日記315 台湾隣国である日本の立場

4月16日、菅総理とバイデン大統領との共同声明で次の文章が盛り込まれた。「台湾に関し両国政府は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」。

日米首脳の合意文書に「台湾」が明記されたのは1969年の佐藤栄作総理とニクソン大統領以来とのことという。これによって菅総理は「ルビコン川」を渡ったのであり、見栄を切った以上、その意思を目に見える形で実行していかなければならないと愛国者は言い、媚中派はいたずらに菅総理はいたずらに中国を刺激し、挑発するまずいやり方だったと政府批判をしている。

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そして案の定というか、中国外務省は日本を名指しして「中国の発展を阻止したいというエゴを満足させるため、人(アメリカ)の顔色をうかがい、その戦略的従属国になっている」と口汚くののしった。これに対して日本の外務省なり、官房長官が「日本の外交姿勢を批判するなど内政干渉である。口を慎め」と言い返したとの報道は聞こえてこない。これでは「アメリカの属国である」との中国からの指摘を認めた上に、言い返さないことで「中国の顔色を見る自主性がない国である」と世界に公言したようなものではないか。

普通一般の日本国民はそう思って切歯扼腕しているのではないか。

そうしたところにさらに追い打ちをかける論評が飛び出した。先に紹介した日米共同声明のくだりは、中国政府の筋書きに沿ったものであり、日本政府があらかじめ中国に下相談して盛り込んだ表現だというのだ。『Hanada7月号』の「中国に忖度せず堂々と“武器”を使え」で、遠藤誉さん(中国問題グルーバル研究所所長)が解説している。

それによると「台湾海峡の平和と安定」は中国が長年にわたって使ってきた常套句。公海である台湾海峡の平和と安定であれば、台湾を独立国として扱う意味とは限らないから痛くもかゆくもない。また「両岸問題の平和的解決」も台湾併合を目論む中国和平統一促進会の主張そのものであり、それを日米共同声明で使ってくれるのは棚ぼた式外交成果である。

日米が台湾への中国の侵攻を断じて許さないというのであれば、ずばり「台湾の平和と安定」、「中国と台湾問題の平和的解決」でなければならないはずというのが、遠藤さんの解説だ。中国から事前に共同声明文のすり合わせを求められ、日本のだれかが唯々諾々それに従って文案について中国の承諾を得て、それを菅総理に演じさせたのが真相だろうと遠藤さん。そうであれば国民騙しの大茶番。日本には独立政府の気概が存在しないに等しいことになる。

対談相手の籾井勝人さん(NHK元会長)は、今回の共同声明の冒頭で謳われている「自由、民主主義、人権、法の支配、国際法、多国間主義、自由で公正な経済秩序を含む普遍的価値観」など中国とは違う価値観を日本は持つべきで(憲法前文でそう書かれている)、これを世界に広めていくとの明確な国家観、理念を強く発信すべきとの立場であり、民主主義の台湾を守るとの共同声明文を一歩前進と評価している。ともあれ「国家としての誇りと矜持を持ってほしい。いままさに日本の理念や生き方が問われています」との対談まとめの言葉を、日本の政治リーダーたちはどう受け止めるのだろうか。

顧問 喜多村悦史

2021年06月11日