怒苦打身日記 ~協会顧問 喜多村悦史のブログ~

怒苦打身日記328 政治とカネ

公職選挙法違反の罪に問われていた元法務大臣(衆議院議員辞職)の河井克行被告に、618日東京地裁が、金銭を授受した100人全員への買収を認定し、懲役3年・追徴金130万円の実刑判決を言い渡した。保釈請求は棄却され、収監された。

この件については286回でも取り上げている。そこで論じたのは、わが国は憲法で議会制民主主義採用しており、その体制を守るのは国民の義務であること。また民主主義を外部から攻撃するのはテロである(原敬総理(1921年)、浜口雄幸総理(1930年)、犬養毅総理(1932)など)が、内部から崩壊させるのが選挙の不公正である。

不公正の典型が票の買収。本件の場合、被買収者が広島県全域の100人もの公職者に及んでいたことで、極め付きの悪質と裁判所が判断したようだ。河井被告は控訴したが、実刑が軽減されることはないとの見方が有力のようだ。

この件について21日のプライムニュースで、自民党有力者の石破茂議員と元東京地検特捜部長の熊崎勝彦さんが熱く語り合っていた。

まず、100人に上るとされる被買収者を不問でいいのか。彼らは選挙で選ばれて首長や自治体議会議員を勤める公職者である。代議制民主主義の重要プレーヤーであるにもかかわらず、選挙を汚した。彼らが受け取ったカネを使って一般市民の買収工作をした可能性について追及しなくてよいのかなどがポイント。参考になるのが2003年衆議院総選挙における埼玉8区の選挙買収事件。

ここではある衆議院議員から500万円が選対本部長の所沢市議を通して同市市議9人に110万円、政党支部幹部ら18人に180万円などが渡っていたが、こうした関係者29人が起訴され、全員が有罪・公民権停止になっていると紹介されていた。今回の河井事件では金額的にも人数的にも数倍の規模である。荊軻(けいか)が軽減されるのは納得できないことで一致していた。

本件の舞台になったのは河井氏の妻の参議院選挙。この選挙では所属政党から15千万円という巨額が提供されていたとされる。その出所が国からの政党助成金であったのかどうか、そうだとすると国民が納付した税が、民主主義を破壊する行為に使われていたことになる。看過できる話ではない。

ここで政治にはカネがかかるという話になった。石破議員は、政治家二世の自分も若手議員の頃はカネで苦労したとして、選挙区内にビラを1回配れば1千万円以上がかかるとか、年賀状の購入費用の捻出でたいへんだったといった話を披露し、熊崎氏も同調していた。

 

年収300万円台でも「1000万円貯めた」お金持ちは100%やってる!今日からできる12の習慣 | ヨムーノ

 

ボクがひっかかったのはこの点だ。ビラやパンフレットを印刷し、戸別郵送すればたしかに巨費がいるだろう。しかし今はSNSで発信する時代で、議員は一般市民よりも数段熟達している。ボクのところにも何人もの議員からブログなどが送信されてくる。これらの送信費用は基本的にゼロのはず。こうした道具があるのに、なぜ印刷費をかけ、切手代を使うのだろう。支持者への講演会や報告会も、はやりのZOOMなどを使えば会場代もかからない。

政治にカネがかかるからという理由で政党交付金が制度化されたが、ネット活用時代では用済みで廃止したほうがいいのではないか。有権者に聞く耳さえあれがカネはかからない。ボクはそう考える。

石破議員は選挙区の声を拾い上げるために、地元にも事務所が必要と主張していた。それには一理ある。ならば秘書の給与を3人までとケチらず、10人分でも出せばよい。立法調査費なども実費で潤沢に支給する。その代り、議員本人の歳費は廃してはどうか。

大方の公益法人では、職員は有給だが、理事役員は無給が原則である。議員スタッフは給料がなければやっていけないが、議員本人はどうしても実現したい政策があって立候補する。そのために支持者はポケットマネーでカンパし、それは所得税において控除される。議員の兼職は望ましいことであり、本業を持ちつつ政治もするのが本来の代議制のはずだ。

「出たい人より出したい人を」が民主主義の基本。料亭遊びをするのが目的の議員は必要ない。

「議員にならないか」と誘われた経験がある人もいるだろう。まんざらでもないと思い、親族に相談したら、「まっとうに勤めれば家財産を失う。当選のために手段を選ばないようになると選挙違反で捕まる」との結論になって辞退することになったのではないか。「政治にはカネがかかる」はまったくのウソ。そういう社会に変えなければならない。

顧問 喜多村悦史

2021年06月23日