怒苦打身日記 ~協会顧問 喜多村悦史のブログ~

怒苦打身日記330 大学進学推進策について

青山学院大学の福井義高教授が産経新聞『正論』(2020124日)に「大学進学推進策は望ましいか」という論考を書いている。その結論部分を引用しよう。

― 実業高校を復権させ大学進学率を下げれば、子供を持つ多くの家庭にとって経済的負担軽減となり、国全体としても歳出を減らせる。進学率引き下げは、労働力不足に対する有力な処方箋でもある。この政策で損をするのは、学生数減少で淘汰される大学の関係者ぐらいであろう。―

福井さんの主張の背景にあるのは、「分数ができない大学生」に象徴される進学者に見られる深刻な基礎学力不足である。高校の「授業をなんとか理解できるのは同じ年代のせいぜい23割」である。人間の知的能力にはばらつきがあり、誰もが勉強すれば抽象度が高い内容を理解できるようになるわけではない。一方、実務に直結する具体的な問題処理は、繰り返し学ぶことでたいていは身に付けることができる。だからアカデミックなど高度人材以外は、実業高校で専門技能をわが身に叩き込むのが、当人にとっても社会にとっても正しいとおっしゃっている。

表向きは別として、内心では「その通り」と思われる方が少なくないはずだ。

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ではどうすればよいのか。福井さんはスタンフォード大学のマイケル・スペンス教授の2001年ノーベル経済学賞の理由になったシグナリング理論を挙げている。企業が新入社員を採用する際、入社試験や面接よりも、卒業学校名を重視するが、それには理由がある。偏差値が高い大学の入試に合格したことが、高い知的処理能力と勤勉さの証明になるからだという理論である。

これまた当たっていると膝を打つ方が多いことだろう。

少子化にもかかわらず、有力大学は入学者数を減らさないから、以前でははねられていたレベルの者が入学し、かつての学生のように4年間を遊び暮らせば、卒業生の潜在能力の落ち込みが無視できない。国内大学すべてで、卒業生のレベル低下が起きている。

 

その証拠は明白で、大学の世界ランキングでうかがえる。高校生新聞(オンライン)で日本の大学の位置づけは惨憺たるものだ。世界1位はマサチューセッツ工科大学(MIT)、2位はスタンフォード大学、3位はハーバード大学で米国の大学が独占。日本の大学では、東大が22位、京大が33位に入るのがやっと。100位に範囲を広げても、東京工大、阪大、東北大を含めて5校のみ。

出典:https://www.koukouseishinbun.jp/articles/-/5372

 

他の調査でも似たようなもので、イギリスの高等教育専門誌「THETimes Higher Education)」では、トップ3にイギリスのおオックスフォード大学やケンブリッジ大学がアメリカを押しのけて入っているが、日本の大学の不成績は同様で、100以内は東大の36位と京大の65位だけとしている。

 

大学を実業学校に名称替えするのはかまわないが、ポイントはそこではなく、日本の大学で顕著に見られる教育研究レベルの低下なのだ。そのための処方箋ははっきりしている。世界に伍するレベルの大学を厳選し、国費投入を集中する。

その他の世界ランキングとは無縁の大学は、純然たる教育機関に徹する。政府が進めようとしている「高等教育の修学支援新制度」による大学無償化の目的を明確化することだ。すなわち学費支援は無利子の貸し付けとしておき、大学で所定の単位を取得し、政府が実施する卒業試験に合格した者だけが、返済免除になる。ここで卒業試験だが、医師、弁護士、社会福祉など国家試験がある分野では、そうした資格試験での合格をもって代替できることにする。

留年することは可能だが、学資貸し付けがなくなるので、偏在免除を獲得するのは難しくなる。在学中にしっかり勉強する動機付けも十分だろう。

 

顧問 喜多村悦史

2021年06月25日