怒苦打身日記 ~協会顧問 喜多村悦史のブログ~

怒苦打身日記332 国産コロナワクチン

社長、頑張れ!
 迷わずエールを送った。塩野義製薬の手代木(てしろぎ)功社長に対してである。
 菅総理大臣の号令でワクチン接種が進んでいるが、そのワクチンはすべて外国製品。国内に高い技術があるのに、なぜ輸入しなければならないのか。
 手代木社長が社運をかけてコロナワクチン開発に邁進していたさなか、厚労省の担当官から目の前で「国産ワクチン? なに言っているんですか。ワクチンはワクチン。まったく関心がない」とつき放されたという。なぜ国内での自給生産をしようとしないのか。「日本固有の変異株が出た場合、市場の小さい日本に向け海外勢は開発してくれるのか」が、手代木社長の率直な考え。至極真っ当と思う。

フリー写真] 新型コロナウイルスのワクチンを注射器に入れる女性医師 - パブリックドメインQ:著作権フリー画像素材集
 昭和の終わりの頃、国内の血友病患者さんの多くがエイズに感染した。原因を探ると治療用の血液製剤の原料血漿が外国の売血を原料としていたことが大きいと判明した。日本人のエイズ感染率は極めて低かった。これに着目すれば、国民に血漿提供(成分献血)を働きかけることでエイズの災厄を防止できる。ならば本気で原料血漿を集めよう。ボクはその担当になった。血液事業は利権の塊、命をねらわれるよという人もいたけれど、国内血液製剤メーカーと膝を接して話すと、国内で原料血漿を得られるのであれば本格協力すると口々におっしゃる。赤十字社も大義名分を得て、献血運動を盛り上げてくれた。厚生省の講堂に大量の献血資材を持ち込み、ボクも一献血者として成分献血したが、その姿を撮影して大伸ばしの額入りにしてプレゼントしてくれた血液センターの人がいた。今も書斎に掲げている。ともあれ在任中に血友病患者さん向けの血液凝固製剤は国内自給の目処が立った。


言いたいのは企業人にも高い使命感があるということ。輸入血漿で血液製剤を作っていたある血液メーカーの社内には献血クラブがあった。製薬企業は社長も社員も日本人。国民の健康を守りたいのだ。しかも塩野義のワクチンは病原ウイルスの遺伝子構造の一部をもとに他生物の細胞内でタンパク質を培養する伝統的手法であり、インフルエンザワクチンなどで安全性が確立している。遺伝物質mRNAを人工合成する手法に比べれば製造時間等はかかるが、技術的に確立しているだけに未知の副作用は考えにくい。


これから製造承認を取り、来年には6千万分を供給するという。そうなると国家としてどう対処するのかが問われる。まず必要なのはワクチンの国家的購入。そのための仕掛けとして、健康保険の目的に傷病の予防を加え、ワクチンを保険給付化する。そうしておけば、今回のように国家の意思として全国民接種を目指す場合は、国家が自己負担分の3割だけを負担することで(今回のコロナでは全額国費負担)、本人負担をなくせる。子宮頸がんワクチンのように自身の判断で接種するときは通常の給付率7割になる。
これほど簡単なことなのに、なぜできないのか。政治が機能していないからと言うしかない。 


顧問 喜多村悦史

2021年06月29日