怒苦打身日記 ~協会顧問 喜多村悦史のブログ~

怒苦打身日記338 国産アルツハイマー治療薬

国内製薬企業エーザイが代表的認知症アルツハイマーの治療薬を開発し、今月初旬にアメリカの医薬品庁(FDA)の承認を受けた。アメリカの製薬会社「バイオジェン」と共同開発した「アデュカヌマブ」という医薬品で、脳にたまった「アミロイドβ」と呼ばれる異常なたんぱく質を取り除くことで脳神経細胞が壊れるのを防ぎ、認知症の進行を抑える。

FDAによると、臨床試験でアミロイドβの減少が確認され、患者の症状への効果が合理的に予測されるとのこと。アルツハイマー病の新薬の承認は2003年以来18年ぶりで、アミロイドβに作用する治療薬は初めてだそうだ。ただ、今回の承認は深刻な病気の患者に早期に治療を提供するための「迅速承認」であり、追加の臨床試験で検証する必要があるとのことで、効果が認められない場合には承認を取り消す可能性もある。アルツハイマーは長期的に進行するので、承認前の治験で効果の全貌を実証することは難しく、かといって効果発揮を待つのでは承認時期が遅れてしまう。

 

スタチンの副作用|リーレクリニック大手町|内科・腎臓内科・健康診断・大手町 | リーレクリニック大手町

コロナワクチンではパンデミック予防のため長期的副作用の有無は未確認の上で承認されたが、それと同じ考えということだろう。

この薬でアミロイドβを取り除くことができても一度壊れてしまった脳の神経細胞を元に戻すことは難しい。アルツハイマー病の前段階や初期では有効だが、進行した者では治療効果を期待できない。アルツハイマー以外の認知症も対象外だ。

とはいえ現時点でも600万人とされるわが国の認知症患者の7割がアルツハイマー病。その1割に効くとしても約40万人が対象になる。一方、費用だが、月1回の点滴投与として年間610万円になるとされる。机上の計算だが、40万人分では24400億円になる。

アメリカと違って日本は世界に冠たる国民皆保険。患者の懐具合とは関係なく、最新最善の治療を受けられるから、わが国で薬事承認されれば、医療保険財政はたちまち破綻に見舞われる可能性がある。

厚労大臣の政治手腕が試される。すなわち医療保険の方向性である。簡単に言えば、「健康維持保険」なのか「疾病治療保険」なのか。

現行の医療保険の給付は治療主体で運営されている。救命の可能性がわずかでもあれば、どんどん経費が投下される。その代表事例が患者の死亡で終わる「終末医療」への財源投入。半面、健康診断、予防接種などは保険給付の対象から外されている。これが「疾病治療保険」の考え方。

しかし医療費の適正化や国民の幸福度の観点からは、未病(みびょう)段階での予防が効果的であることは論を待たない。健康づくりまで含め、その推進に保険財源を重点投下し、治療に関しては投入コストと回復による利益とのバランスをしっかり比較衡量して厳格限定した治療のみを給付対象にするのが正しい。こうすれば「健康維持保険」ということになる。

急性病では「疾病治療保険」が有効であり、慢性病には「健康維持保険」が望ましい。保険財源に限りがあるのは当然のこと。国民福祉に関点では、高くなりすぎた保険料率の軽減が求められ、これは声なき国民の声である。現状に追われてあたふたするばかりでなく、医療保険の本質をどうとらえ直すのか。厚労大臣の政治家としての真価が問われている。今回のアルツハイマー治療薬の扱いをどうするか。彼の理念なり哲学が問われている。

顧問 喜多村悦史

2021年07月05日