怒苦打身日記 ~協会顧問 喜多村悦史のブログ~

怒苦打身日記343 火災保険で無料修理

住宅は定期に補修を繰り返すことで格段に寿命が延びる。住まい手である人間の授業が50歳から100歳へと倍増しているのに、住宅の方は相変わらず25年から30年の耐用年数というのはあまりにおかしい。

自分の家をしっかりメンテナンスしようとの傾向が出てきたのはいいことだが、問題はその費用。確たる標準料金の公示がないから、基本的に業者の言いなり。リフォーム業者から見積もりを取った経験がある人は分かるだろうが、「この金額でやってもらっていいの」とこちらから積み増し支払いをも申し出たくなるような業者もいれば、「修繕は新築より技術がいるのだ」と部屋の床張替えに500万円も要求してきた業者もいる。

そうした業者が新たにセールストークに使うのが火災保険。「お宅の火災保険で屋根を直せる。床下工事費も大丈夫。保険会社には『昨年の台風で傷んだ』、『半年前の大雨で床下浸水した』などと言えばよい」と知恵をつけ、修理契約に印を押させる。無論その料金は市価より何割も高い。だが委託した高齢夫婦の方も、「保険金で後から全額返ってくる」と思い込まされているから、値段など気にしない。

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さて、工事が終わり、保険金請求してから現実に引き戻される。保険調査員はプロの目ですぐに見抜く。「天井の痛みは太陽光を浴び続けての劣化」であり、「床下は水はけが悪いことによる腐食の進行が主因」。「さらに言えば、建築時点での手抜きの痕跡がある」と今さらの指摘をする始末。当然、保険金はゼロ査定になる。

老夫婦は消費生活センターに駆け込むことになり、全国集計すると一大事件になる次第。だが、悪徳業者が判明したところで、全国の老夫婦が過剰に支払った工事費が返ってくる可能性はない。追及の手が迫っていると悟った段階で、業者は社名を変更して別会社になっているからだ。

損害保険会社もこの種の不当保険金請求に困っていて、「安易に悪質な業者の勧誘に乗らないで」と訴えているそうだが、被害は後を絶たない。

当然だろう。同一人物が被害にあうのは基本的に一回。同じ失敗を繰り返す者は多くない。

ではどうすればこの種の事故を防げるか。ボクの提案はこうだ。

そもそも上述の老夫婦が保険金詐欺の主犯であることを周知する。火災保険の約款には、保険金が出る事故を、火災、地震、台風、水害などと明記しているはず。自然劣化を台風のせいと主張した時点で、老夫婦は警察に呼ばれても文句を言えない。ただし、多くの場合、そそのかしたのは補修業者であり教唆犯。そしてこちらの方が実質主犯である。

この構図が分かれば、することは一つ。保険契約書に「工事を伴った場合の保険金請求は、その工事人と連名での請求を前提とする」と書き加えることだ。これだけを徹底しておけばよい。工事を持ちかけられた老夫婦は、工事業者に保険契約書を見せ、保険金請求書への連盟と工事代金支払いは保険金が出てからにするとの一札を求めればよい。保険査定でダメとなれば、老夫婦から工事費を取れず、工事業者が保険会社に支払いを求めなければならなくなる。この場合、保険会社は法律のプロを幾人も抱えているから、赤子の手のようにひねられるのは悪徳修理業者の方になる。よって工事業者もでたらめな工事勧誘をできなくなるわけだ。

消費者保護の決め手は、消費者を無防備で法律闘争の最前線に立たせないことに尽きる。これを自由な契約の侵害という者はいないと思うが、いかがだろう。

顧問 喜多村悦史

2021年07月14日