怒苦打身日記 ~協会顧問 喜多村悦史のブログ~

怒苦打身日記344    休業補償と原因傷病

国民皆保険ではあるが、加入制度によって給付に差異がある。その一つが傷病手当金。健保(健康保険)では傷病手当金が制度化されているが、国保(国民健康保険)では「条例又は規約によって給付をすることができる」となっていて、市町村で実施しているところはない。

健保は雇用労働者が対象であるから、病気で会社を休めば、福利厚生に配慮が行き届いたところは病休手当を支給するが、そうでないところは賃金カットになる。そこで健保制度からの傷病手当金支給が必要とされる。これに対し、国保の主な加入者は自営業者。病気治療中であっても業務形態によっては必ずしも収入が途絶するわけではないから、法定の給付にしていないと説明される。

臨時休業の写真素材|写真素材なら「写真AC」無料(フリー)ダウンロードOK

それで納得できる人はどのくらいいるだろう。

そうした中、コロナが原因で、あるいはその疑いがある者に対しては、国保においても傷病手当金の支給を検討するようにとの国からの指令が出ている。「新型コロナウイルス感染症に感染した被用者に対する傷病手当金の支給等について」(令和2310日)と題する厚労省の担当課からの都道府県に対する「事務連絡」。形式的には“お手紙”だが、自治体は命令と受け取り、大わらわで条例等の整備が行われたと想定される。

概要は次の2点。

①対象者は国保に加入している「被用者」。いわゆる5人未満の非適用事業所に雇用されるか、短時間労働なので健保の被保険者としてカウントされない者が給付対象であり、国保本来の想定加入者である自営業者などは給付対象ではない。

②コロナで特例的に支給される国保の傷病手当金の財源は、その全額を国が特例的に財政支援をする。

「事務連絡」は、これらが「新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策―第2弾―」(令和23 10 日新型コロナウイルス感染症対策本部決定)で決まったとしている。

すぐに疑問が浮かばないだろうか。医療保険は代表的な社会保険。給付財源は加入者が納付する保険料で賄うのが基本。国民連帯によって制度への国民の信頼を醸成するとともに、政府一般財源の負担を軽減し、国防、防災その他の国家としての基盤に関わる財源を確保しようとしているのだ。

しかるに国保での傷病手当金の給付全額を国費で補填するのでは、上記の財源確保計画が台無しだ。

また、国保で傷病手当金を支給するとして、それはなぜコロナだけなのか。病気治療で仕事ができず、収入が雄絶するのは、コロナに感染した場合に限らない。むしろコロナ治療期間が長くないから、該当者が生活に困る度合いはさほど多くはないはずだ。

傷病手当金については根源的な論点がある。労働法が進展し、すべての労働者に年間最大20日の有給休暇を使用者は与えなければならない。その延長線上で、労働基準法において病休についても年間最大20日の有給病休を義務づければ、医療保険からの傷病手当金の必要性は格段に小さくなる。

また病休による収入補償は自営業者にこそ必要なのではないか。仮病等での不正受給を防ぐ手立ては当然必要だが、支給の必要性は認められるはずだ。

コロナではなんでもあり。そこで今回の措置が考えられたのだろうが、医療保険における傷病手当金のあり方というせっかくの検討機会を逃したのは、まったく残念なことである。目先のことにしか目が行かず。本質問題を考えなくなっている傾向が心配だ。

顧問 喜多村悦史

2021年07月14日