怒苦打身日記 ~協会顧問 喜多村悦史のブログ~

怒苦打身日記346 ワクチンパスポート

感染症防止にワクチンは有効だ。特にコロナや結核のように空気感染で広がり、パンデミックを生じるものについては、国民の公衆衛生の観点から接種は不可避である。兆円規模の国費を投じて、コロナワクチンを無償接種しているのは、まさにこの公衆衛生目的のためである。この場合、接種の強制は社会防衛上の必要事項であり、個人にとって接種は義務になる。

ここが接種個人の感染防止目的である子宮頸がんワクチン等との違いだ。パンデミックの可能性が低い疾病対象のワクチン接種は個人の利益のためであり、そのために公費を投じるのはバラマキ給付にほかならず、基本的に許されない。

ワクチン接種は新たなパスポートとなるのか? WEDGE Infinity(ウェッジ)

以上を前提に、世間で議論されている「コロナパスポート」について考えてみよう。ワクチンパスポートとは、コロナワクチン接種証明書のことだ。欧州連合(EU)で運用が開始されており、海外出張での出入国がスムーズになるほか、疲弊した経済の活性化につながるとして、日本政府も7月下旬には発行を開始する方針だ。

産経新聞の「論点直言」(2021.7.11)で3人の識者のインタビューが紹介されている。読まれた方は少なくないと思うが、聞き手のまとめが甘いのか、論点が絞られていない。ボクなりのポイントをまとめる。

まずワクチン接種証明書の作成、発行について。なぜコロナに限定した議論になるのか。感染症に対するワクチンの有効性は、公知、常識に属する。接種済みであることを認証することを望む者の希望に沿うことが国家利益とも合致するならば、その証明書を国家が発行することは望ましい。自動車運転免許証と同じようなものである。経費を賄う手数料を徴収すればよい。その証明書の効力を他国が認めるかどうかは、受け入れ国の主権に属する事項であるから、相互の協定や条約次第である。運転免許証ではそうなっているはずだ。ポイントはコロナに限定せず、幅広く感染症を含むことだ。当人が発行を希望せず、あるいは登録ワクチンを限定したいときは、その要望に応じる。

ワクチンパスポートの発行は政府が行う。したがって国内においては、パスポート保有者は感染源になった場合の賠償責任を基本的に免責される。これが第二のポイントだ。緊急事態宣言下では飲食店での酒類提供中止が求められており、それに法的強制力があるのか否かで議論されている。ワクチンパスポートはこの問題を解消する。パスポート保有者が感染源になったとしてもその者が感染を引き起こした民事賠償を免責されるのであれば、その客を受け入れた飲食店も同様に免責されることになるからだ。つまりパスポートの普及が進めば、飲食店への営業自粛協力費を支給する必要性はなくなっていくわけだ

第三のポイントは、ワクチン接種を受ける義務の強制履行の是非である。ワクチンには、社会防衛上の必要があるものと、個人の疾病予防に留まるものがあると冒頭で整理した。公衆衛生目的による前者のワクチンでは、接種は義務である。接種拒否者に不利益や罰則を科すことは、社会的な要請事項である。ここで問題になるのがコロナワクチンなのだ。山口真由さんが指摘するように、「コロナワクチンでは長期的影響はまだ分かっていない」。緊急対応を優先したため、十年単位での長期的副作用の検証がなされていない。国民の「自由」を尊重することを国是とするわが国(憲法で自由権は政治の普遍的原理と宣言している)では、現段階でのコロナワクチン強制接種は憲法違反になるはずだ。

コロナワクチンの接種強制は許されない。将来の付加的な副作用のリスクを承知で自身の体でワクチンを受け入れるか否かは、国民個々の連帯意識にかかっているわけだ。そして日本国民の場合、連帯意識が高いことが今回のコロナワクチン接種においても証明されている。それだけのことなのだ。

結論を言おう。ワクチンパスポートは発行すべきである。ただし盛り込む情報をコロナワクチンに限定するのでは知恵がなさすぎる。コロナからは始めるのは良いとしても、徐々に全ワクチンに拡大することを前提とするものでなければならない。

社会防衛上必要なワクチンは強制接種しなければ意味がない。ただしコロナに関しては、長期的副作用が解明されていない現時点では強制はできない。

これだけを踏まえればよいのであり、口角泡を飛ばして議論すべき難しさはどこにもない。

なお、接種を高齢者から始めたのは、(社会的には疑問だが)、科学的には正しい。接種が進む過程で長期的副作用の有無への知見が得られる可能性があるからだ。そして仮に重大な副作用(例えば発がん性)が見られたとしても、高齢者では実質被害は限られるからである。

顧問 喜多村悦史

2021年07月14日