怒苦打身日記 ~協会顧問 喜多村悦史のブログ~

怒苦打身日記355 防衛白書

2021年版の防衛白書が閣議決定された。今回の特色は「台湾情勢の安定が日本と国際社会の安全保障にとって重要」と明記したこと。

沖縄方面の海空域では、中国の艦艇や戦闘機が、活動を活発化させている。中国の軍事費は30年間で40倍以上に増強した。中国海警局の船舶による尖閣周辺の接続水域での活動日数は、過去最多を更新し、領海侵入が相次いでいる。今年2月に中国は、海警局に武器使用を認める法を施行し、東シナ海の緊張を高めている。日本の安全保障にとって、重大な事態に発展するリスクだ。白書は中国の一連の行為を「国際法違反」と非難したが、なんと初めてのことだそうだ。昨年までの白書は事実を見ていなかったか、見ていながら見えないふりをしていた。

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白書に対して中国は、「内政干渉だ」などと反発しているそうだ。殴っても、蹴っても、決して声を上げなかった日本が「ちょっとひどい」と言ったことに腹を立てている不思議な構図だ。これこそ内政干渉ではないか。ここで再び黙ってしまうようでは、独立国の旗を降ろした方がよい。

4月の日米首脳会談で、菅義偉首相は防衛力を強化する決意を示している。防衛費倍増を宣言し、補正予算で早速手を打つべきだ。対外メッセージが必要なのだ。コロナでバラマキをしている場合ではない。

 

7月15日の生番組『プライムニュース』で防衛大臣経験者3人による白書解説が行われていいた。森本敏、小野寺五典、中谷元の三人。防衛大臣就任は2012年から2016年頃でこの順だったと思うが、中谷さんは前身の防衛庁長官もしており、小野寺さんは2017年にも再任している。国防の鼎(かなめ)として適役だったとの評価からのテレビ局による人選だと思ったのだが…。ボクなりにまとめた。

ポイント1。今回の白書で台湾危機を含めて、中国関連の表記が明瞭になった理由について。

2014年に中国は、国際司法裁判所の「9段線に根拠はなく、南シナ海での中国の領有権主張にはまったく根拠がない」の裁定を「紙くず」として無視し、埋め立てを強行した。アメリカのオバマ大統領への「軍事基地化しない」の約束も平気で破った。しかし国際社会は動かなかった。同年、ロシアはウクライナに軍事侵攻してクリミア半島などを奪いとった。これも黙認された。これで習近平は、力があれば国際ルールを改変できると学んだ。自制はなくなったのであり、世界はパワー激突の時代になった。

ポイント2。中国に関しては「懸念」としか書いていない。北朝鮮を「脅威」としているのに比べて腰が引けている。

中国の侵攻目標はまず台湾。日本の尖閣はその先であるから、現時点ではまだ明白な脅威ではない。それに中国とは経済的な関係が深く、北朝鮮のように突き放すわけにはいかない。

ポイント3。南シナ海での埋め立て、軍事基地化について。

フィリピンだけが国際司法裁判所に提訴した。そのフィリピンのドォルテ大統領は娘を後継者にする私益のために中国の力を借りようとしている。これを例示として、周辺諸国に領土防衛の真剣さが足りない。南シナ海に関与する国々が順々に国際司法裁判所に提訴すれば、すべて勝訴は確定的なのにもかかわらず。日本の外交は、アセアン諸国を団結させるための努力を何もせずに傍観していた。サンゴ礁の破壊という地球環境からの指摘すらしなかった。これではアジアでの地域大国とも言えない。

ポイント4。中国はどこまで侵略すればおさまるか。

力の空白があればどこまででも侵攻する。フランスがベトナムから引き、ロシアがカムラン湾から出ていき、アメリカがフィリピンの基地から撤去したすべての時点で、中国は前に出た。これはすべての国境線で共通している。“華夷秩序”を世界標準にさせる決意なのだ。つまり「各国の対等併存という西欧流秩序の破壊」が核心目的なのだ。

ポイント5。台湾防衛にどうコミットすべきか。

アメリカには台湾関係法があるが、そのベースである「一つの中国」は、平和的共存のための二つの内容を含む。一つは台湾が独立国を主張しないこと。二つは中国が侵攻しないこと。中国は勝手自在に解釈を変える。それを絶えず指摘しないと、認められたものと判断する習性がある。中国が軍事作戦を企図すれば、「一つの中国」論は崩れて前提を失う。つまり台湾は独立国となる。ただし懸念は、バイデン大統領になって以降、アメリカが谷台湾への新たな武器供与を決定していないこと。中国はこの事実をどう勝手解釈するか。アメリカは弱気と受け止めれば。中国軍部は積極侵攻を具体化するだろう。

ポイント6。わが国はどうすべきか。

国防は総合的戦略が必要。コロナ対策のワクチンも国防上の戦略物資との視点が欠かせない。そうした点での国民の覚醒が必要だ。

中国の得意技は、世論戦、心理戦、法律戦。軍事力を脅しに使い、相手が疑心暗鬼になって自滅するのを待つ。対抗するには戦略とその運用の一体化が不可欠。

ポイント7。韓国の文大統領が菅総理との対談を希望しているようだが。

慰安婦、徴用工など、日本の立場は不変。宿題は韓国側にある。韓国が態度を改めない限り話し合う意味はない。むしろ民主主義陣営に位置する覚悟があるのか、それを確認する必要がある。しかしオリンピックで来日した首脳を無視するわけにはいかないから、表面的には親善を装う。悪用される懸念は大きいが。

 

三人とも分析家のようだ。危機感の表明は分かったが、政治家として国民にどうしようと呼びかけているのか。「具体策はないので各自でわが身を守れ」では、地震対策並みではないか。地震は予知できないが、侵略、戦争は政治行為である。

中国との関係は「民主主義対専制主義の闘い」である。アメリカのバイデン大統領に言われるまでもない。民主主義派の根底にあるのは、人類の大多数は専制下での抑圧された暮らしを望まないという確信である。われわれの日本国憲法前文にそう書いてある。専制体制を壊し、虐げられている人々を開放すること。軍事侵攻を許さないための正面装備で対等以上を維持するとともに、相手側の一般市民に自由の価値を思い起こさせることだ。働きかける相手は9千万人の共産党員ではなく、その他の13億人なのだ。それが日本国憲法下で育った現代日本人の使命である。「軍事的パワーで劣後しないよう装備を近代化しつつ、百年の冷戦でも耐えうるように経済面での対抗力を強化することだ。」

3人の元防衛大臣はそう言いたかったのではないか。しかるにそうした発言は出なかった。評論ではなく、国民に行動を促すのが政治家の役割である。それを引き出せない司会にがっかりだった。

顧問 喜多村悦史

2021年07月20日