
怒苦打身日記 ~協会顧問 喜多村悦史のブログ~
少子化の主因は子どもを産み育てる苦労が報われない現代の社会構造にある。こうした中、わが子をこの手に抱きたいと不妊治療にいそしむ夫婦は表彰ものである。
日本産婦人科学会によると2017年に行われた不妊治療は44万8210回で、出生数が5万6617人(「日テレNEWS24」9月19日)とのことだ。1回の治療費を40万円とすると総額2000億円弱。出生児一人約360万円で、社会的負担としては高くない。
不妊治療にもいろいろあり、基礎体温測定を通じてのタイミング法や薬剤による排卵誘発法は簡単な部類である。これに対し顕微鏡下で精巣から精子を取り出したり、そうした精子を卵子に注入したりする高度な手法もある。すでに保険適用になっている手技もないではないが、基本的には自費診療分野の扱い。その診療費負担が高額であることを理由に、所得制限のもとに国や自治体が費用助成するものもある。
総理の発言は、治療によって妊娠に結びつく者に対してはその機会が十分公正に与えられるべきであり、その手段としてはわが国の基本制度になっている「国民皆保険」の給付対象にすべきということであろう。
わが国は明治維新にさかのぼっても、人口過剰、子どもの生まれすぎが国難事項とされてきた。それがひっくり返って、今や子どもが生まれないのが国難になっている。しからば政策方針を転換し、不妊治療を公的医療保険の対象にするのは時宜を得たものであり、総理の指示を活かさなければならない。
ただし保険財源は制約されている。保険医療のあり方を審議する中医協の任務は、不妊治療の代償としてどの分野の医療を保険給付から除外するのかの提案である。
顧問 喜多村悦史
2020年10月16日